競合分析は、相手を打ち負かすためのものではありません。それは、広大な市場の中で、あなただけの輝ける場所(=ニッチ)を見つけ、そこで深く愛されるための、戦略的な取り組みです。

皆さん、こんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

前回(第5回)は、ビジネスモデルキャンバス(BMC)を使って、あなたの事業アイデアの全体像、つまり「設計図」を描きましたね。

顧客は誰で、どんな価値を、どうやって届け、どう収益を上げるのか…その骨格が見えてきたはずです。

さあ、自分の価値提案が明確になってくると、次に気になるのは、同じことをやっている企業、同じ価値を提案しようとしている企業、すなわち『競合』の存在ではないでしょうか?

「あの会社と同じようなことを考えている人がいるかも…」 「大手には勝てないんじゃないか…」 「価格競争に巻き込まれたらどうしよう…」

そんな不安を感じるのは、自然なことです。

しかし、今日の話を聞けば、競合に対する見方がガラッと変わるかもしれません。

今回のテーマは、競合を恐れるのではなく、むしろ『学びの対象』として捉え、自社の『違い』を明確にし、顧客から『選ばれる理由』を能動的に創り上げていくための考え方と具体的なステップです。

「競合なんて見ずに、自分のやりたいことに集中したい!」という気持ちも分かります。しかし、あえて競合という「鏡」を覗き込むことには、計り知れないメリットがあります。

■市場という名の『海図』を理解する

あなたが価値を届けようとしている顧客には、他にどんな選択肢があるのでしょうか?

競合を知ることで、市場の常識、顧客の期待値、そして価格帯などの「海図」が見えてきます。

■『宝島(チャンス)』を発見する

競合が満たせていない顧客のニーズはありませんか? 彼らが見過ごしている顧客セグメントはありませんか? 

競合の「弱み」や「隙間」は、あなたのビジネスにとっての「宝島」=チャンスとなり得ます。

■自社の『航路(戦略)』を洗練させる

競合の動きを知ることで、「自分たちはどう動くべきか?」「どうすれば効果的に差別化できるか?」という自社の戦略をよりシャープにできます。

他社の成功や失敗から学ぶことも可能です。

■『嵐(脅威)』に備える

競合の強みや今後の動きを把握しておくことで、予期せぬ「嵐」=脅威に対して、事前に対策を講じたり、迅速に対応したりすることができます。

競合分析は、ネガティブなものではなく、むしろ自社の進むべき道をより確かなものにするための、ポジティブで戦略的な活動なのです。

「競合」と一口に言っても、いくつかの種類があります。

どこまでを意識すべきか、整理してみましょう。

■直接競合

あなたと同じような商品・サービスを、同じような顧客に提供している相手です。(例:同じ地域の別のラーメン店、同じ機能を持つ別のソフトウェア)ここが最も意識すべき相手になります。

■間接競合

手段(商品・サービス)は異なるが、顧客が同じ“進歩(ジョブ)”を達成しようとする手段全般です。分かりやすく言えば、間接競合とは、お客さんの同じ悩みを解決したり、望んでいる成果を得ようとする他の選択肢のことです。

顧客のお金や時間の奪い合いという点で無視できません。

しかし、間接競合を探すのは結構難しいと思います。なぜならジョブは複数考えられるからです。

そこで機能面から代表的なジョブを3つほど選び下記のようにリストにします。

そして、顧客のジョブの機能面から「このジョブを満たす手段って他に何がある?」として手段を探します。

機能的ジョブ手段の選択肢(競合)
ひと息つきたいコーヒー/紅茶/ハーブティー/瞑想/散歩
集中したいスタバ/コワーキングスペース/静かな図書館/エナジードリンク
誰かと気軽に話したいドトール/ファミレス/居酒屋/Zoomでの雑談会

機能的ジョブに対して、機能的価値を満たしたうえで選択肢にあがり、社会的価値、感情的価値の部分で満たすことができれば選ばれるということになります。

ちなみに、機能面だけではなく、社会的価値、感情的価値について顧客が認識しイメージが出来る状態はブランド認知がある状態と言えます。この状態を作る活動をブランディングと言います。

■代替競合

顧客が、あなたの解決しようとしているジョブを全く別の方法で満たす、あるいは諦める場合の選択肢です。

(例:ラーメンを食べたい欲求に対し、「今日は節約して家で食べる」「気分転換に散歩する」など)

■顧客になったつもりで検索

あなたがターゲットとする顧客が、悩みを解決しようとする時、どんなキーワードで検索するか想像し、実際に検索してみましょう。

■顧客に直接聞く

「うち以外に、どんなお店やサービスを検討しましたか?」「普段、〇〇したい時、どうしていますか?」と顧客に尋ねるのが最も確実です。

■業界マップ・カオスマップ

特定の業界のプレイヤーをまとめた資料があれば参考にします。

■SNSやレビューサイト

関連キーワードで検索し、言及されている企業やサービスをチェックします。

まずは、主要な直接競合と、特に影響の大きそうな間接競合をいくつかピックアップすることから始めましょう。

競合を見つけたら、彼らから何を学ぶべきでしょうか?

以下のポイントをチェックしてみましょう。まるで探偵のように、客観的な情報を集めることが大切です。

価値提案 (VP)

彼らは顧客に何を約束していますか? Webサイトのキャッチコピー、広告メッセージなどから読み取ります。

ターゲット顧客 (CS)

どんな顧客層を狙っているように見えますか? (Webサイトのデザイン、価格帯、出店場所などから推測)

商品・サービス

どんな特徴がありますか? 価格は? 品質は? 品揃えは?

チャネル (CH)

どうやって顧客にアプローチしていますか? (店舗、Webサイト、SNS、広告媒体など)

マーケティング

どんなメッセージを発信していますか? どんなキャンペーンを打っていますか?

顧客の声(強み・弱み)

レビューサイトやSNSで、顧客は何を評価し、何に不満を感じているでしょうか? これが最も正直な情報源です。

ビジネスモデル(推測)

上記の情報から、彼らの収益源(RS)、キーリソース(KR)、キーアクティビティ(KA)などを推測してみましょう。(BMCを描いてみるのも有効!)

全てを完璧に調べる必要はありません。まずは、自社の戦略を考える上で特に重要だと思われる競合の、重要なポイントを把握することを目指しましょう。

競合の情報を集めて分析するのは、正直、時間も手間もかかりますよね。

そんな時、生成AIを活用しましょう。生成AIは競合分析のプロセスを驚くほど効率化し、人間だけでは気づきにくい視点を与えてくれます。

競合のWebサイトの内容を要約させたり、大量の顧客レビューからポジティブ/ネガティブな意見を抽出・分類させたりすることができます。

プロンプト例:競合Webサイトの要約

プロンプト例:顧客レビュー分析

過去のブログでも紹介したPerplexityを活用した競合調査プロンプトはこちらでご覧いただけます。

注意点: AIの情報収集・要約は非常に便利ですが、情報の正確性や最新性については必ず裏付けを取りましょう。

特にレビュー分析などは、AIが文脈を誤解することもあります。

集めた競合情報と自社のビジネスモデル(BMC)や価値提案を入力し、AIに比較分析させ、客観的な視点から差別化の可能性を探ってもらいましょう。

プロンプト例:価値提案の比較と差別化ポイント洗い出し

AIは、あなたが見落としていた比較の観点や、意外な差別化の切り口を提示してくれるかもしれません。

競合分析で得られた情報は、それ自体が目的ではありません。

最も重要なのは、その学びを活かして、あなた(自社)だけのユニークな『選ばれる理由』=差別化戦略を創り上げることです。

前回描いたあなたのBMCと、今回分析した競合の情報を並べてみてください。

  • あなたの「強み(KR, KA)」は、競合の「弱み」を突くことができますか?
  • あなたの「価値提案(VP)」は、競合が満たせていない「顧客のジョブ」に応えられますか?
  • 競合とは違う「チャネル(CH)」や「顧客との関係(CR)」を築くことで、独自性を出せませんか?

【差別化の切り口(例)】

  • 商品・サービスで差をつける: より高品質、特定機能に特化、優れたデザイン、独自技術など。
  • 価格で差をつける: より低価格(ただしコスト構造が伴う必要あり)、あるいは、付加価値を高めて高価格帯へ。
  • 顧客体験で差をつける: 圧倒的に親切なサポート、パーソナライズされた対応、感動的な体験の提供。
  • ブランドイメージで差をつける: 独自のストーリー、共感を呼ぶ理念、特定のコミュニティ形成。
  • 利便性で差をつける: より簡単な購入プロセス、迅速な提供、アクセスの良さ。
  • ニッチ市場に特化する: 競合が手を出さない、特定の深いニーズを持つ顧客セグメントに徹底的にフォーカスする。

これらの切り口を参考に、競合分析の結果を踏まえて、あなたの価値提案(VP)をさらに磨き上げましょう。「誰に対して」「何を」「どのように」提供するのか、その『違い』を明確に打ち出すのです。

競合の存在は、決してネガティブなだけではありません。彼らは、あなたのビジネスを映し出し、磨き上げるための『砥石(といし)』のような存在と捉えることができます。

競合がいるからこそ、

  • 「もっと良いものを提供しよう」という向上心が生まれる。
  • 自社の独自性存在意義を深く考えるきっかけになる。
  • 市場全体が活性化し、新たなイノベーションが生まれる可能性がある。

大切なのは、競合に怯えて真似をしたり、消耗戦を仕掛けたりすることではありません。

競合から謙虚に学びつつも、常に『あなた自身の顧客』に目を向け、彼らにとっての最高の価値を提供することに集中する。そして、自分たちの『違い=ユニークさ』を自信を持って打ち出していく。

その姿勢こそが、持続的な成長への道なのです。

「競合は分かったけど、どう差別化すれば良いか具体的に分からない…」 「自社の強みを活かした、効果的な差別化戦略を考えたい!」 「客観的なアドバイスが欲しい!」

Miraizは、競合分析から差別化戦略の構築まで、あなたの「違い」作りを強力にサポートします。

■専門家(私)による戦略的分析

あなたの事業と市場環境を深く理解した上で、どの競合をベンチマークすべきか、どこに差別化のチャンスがあるか、戦略的な視点からアドバイスします。

■AIによる効率的な情報収集と比較分析

面倒な情報収集や比較分析をAIで効率化し、客観的なデータに基づいた議論を可能にします。

■BMCと連動した差別化戦略の具体化

競合分析の結果をあなたのBMCに落とし込み、価値提案、キーアクティビティ、チャネルなど、ビジネスモデル全体で整合性の取れた、実行可能な差別化戦略を一緒に創り上げます。

私たちは、冷静な分析と熱い想いを融合させ、あなたのビジネスが市場で確かな存在感を放つための「選ばれる理由」作りを、伴走者として全力でサポートします。

今回は、競合を恐れるのではなく、むしろ学びの対象として捉え、自社の「違い」を明確にし、「選ばれる理由」を創り出すための考え方とステップを探求しました。

競合分析を通じて得られた洞察は、あなたのビジネスモデルキャンバス(BMC)をさらに強固にし、価値提案をよりシャープにするための貴重な材料です。

さあ、これで事業の設計図(BMC)が描かれ、周囲の海図(競合状況)も把握できました。いよいよ船を動かすための具体的なエンジン、つまり『収益』と、それを届けるための『経路(チャネル)』について考える段階です。

次回、【第7回】「チャネルと顧客との関係」では、あなたの価値提案をを顧客に最も効果的に届けるためのチャネルをどう設計するのか? 顧客との関係性をどのように考えていくのかについて、具体的な方法を探っていきます。

磨き上げた「違い」という名のコンパスを手に、次回の収益化への旅にも、ぜひご期待ください!

Empowering Your Vision, Building the Future.