効果的な価値提案を創り出すためには、まずその「材料」となる情報を整理し、AIに的確にインプットする必要があります。AIは、与えられた情報を元に思考を巡らせるため、この準備段階が非常に重要です。

皆さんこんにちは、事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

前回(第4回)は、AIを活用して顧客のジョブ(Jobs To Be Done)、ペルソナ、そして顧客セグメントを深く理解し、ターゲット顧客の解像度を高める方法を探求しました。

「誰の」「どんな用事」を解決するのか、その具体的な顧客像が見えてきたことで、あなたのビジネスアイデアはより確かなものになったのではないでしょうか。

さて、明確になった顧客像に対し、いよいよあなたのビジネスが提供する「価値」を具体的に定義するステップに進みます。それが「価値提案(Value Proposition)」です。

価値提案とは、あなたの製品やサービスが、顧客にとって「なぜ魅力的で」「なぜ選ばれるべきなのか」を明確に伝える「約束」であり、ビジネスの成功に不可欠な要素です。

今回は、この価値提案を、生成AIという強力なパートナーと共に、顧客の心に深く刺さる「選ばれる理由」へと磨き上げるプロセスを、具体的なAI活用法やプロンプト例を交えながら探っていきましょう。

AI活用の高度化には「プロンプト設計力」「ペルソナ視点での評価」「言語・視覚の多様化」が鍵となります。

価値提案を考える上で重要な構成要素

  1. ターゲット顧客(ペルソナ): 第4回で作成した、詳細なペルソナ情報(属性、価値観、ライフスタイル、抱えるジョブなど)。
  2. 顧客のジョブ(Jobs To Be Done): ペルソナが達成したい機能的・感情的・社会的ジョブ。
  3. 顧客のペイン(Pains): ペルソナがジョブを遂行する上で感じる悩み、不満、障害、リスク。
  4. 顧客のゲイン(Gains): ペルソナがジョブを遂行する上で期待する成果、喜び、便益。
  5. 自社の強み(Strengths): 第2回(シリーズ1対応)で発見・整理した、自社ならではの資源、技術、ノウハウ、経験など。

これらの情報を、AIとの対話の冒頭で明確に提示することが、質の高い価値提案を生み出す第一歩です。

プロンプト設計のコツ①:前提情報の入力

ペルソナ、ジョブ、ペイン、ゲイン、自社の強みといった情報は、価値提案を考える上での「前提」として、プロンプトの最初にAIにしっかりとインプットしましょう。これにより、AIは文脈を正確に理解し、より的確な提案をしやすくなります。

例:

ステップ2:AIと「ペインリリーバー」を発想する – 顧客の悩みを取り除く

価値提案の重要な側面の一つは、顧客の「ペイン」をいかに効果的に取り除くか、ということです。これを「ペインリリーバー」と呼びます。

  • 目的: 第4回で特定した顧客の「ペイン」に対し、自社の「強み」を活かして、具体的にどのように解消・軽減できるか(=ペインリリーバー)のアイデアをAIと共に発想します。
  • AI活用法:
    1. ペルソナが抱える主要なペインと、自社の強みをAIに提示します。
    2. 「このペインを、当社の[強みA]や[強みB]を活かして解決するための具体的な方法や機能、サービスのアイデアを複数提案してください」と依頼します。
    3. AIの提案に対し、「それは本当にこのペルソナのペインを効果的に軽減できるか?」「もっと斬新な解決策はないか?」「このペインリリーバーを実現するための具体的なステップは?」など、第1回で紹介した「深掘りプロンプト」や「リフレクションプロンプト」を活用して対話を重ね、アイデアを具体化・洗練させます。
  • プロンプト設計のコツ②:条件追加で精度向上
    • 「〜という制約がある中で(例:予算、期間)」「〜のようなトーンで(例:顧客に寄り添うような、専門的な)」「〜という視点を重視して(例:短期的な効果、長期的な持続可能性)」といった条件を追加することで、AIの提案の方向性をコントロールし、より的確で実用的なアイデアを引き出すことができます。

プロンプト例:

ステップ3:AIと「ゲインクリエイター」を発想する – 顧客の期待を超える

顧客の悩みを取り除くだけでなく、顧客が期待する成果や喜び(ゲイン)をさらに増幅させることができれば、あなたの価値提案はより強力なものになります。これを「ゲインクリエイター」と呼びます。

  • 目的: 第4回で特定した顧客の「ゲイン」に対し、自社の「強み」を活かして、具体的にどのように実現・増幅できるか(=ゲインクリエイター)のアイデアをAIと共に発想します。
  • AI活用法:
    1. ペルソナが期待する主要なゲインと、自社の強みをAIに提示します。
    2. 「このゲインを、当社の[強みC]や[強みD]を活かして顧客に提供するための具体的な方法や機能、サービスのアイデアを複数提案してください」と依頼します。
    3. AIの提案に対し、「このゲインクリエイターは、顧客の期待をどの程度上回ることができるか?」「もっと感動を与えるような提供価値はないか?」「このゲインクリエイターを提供することで、ペルソナの感情的ジョブや社会的ジョブにどう貢献できるか?」など、対話を通じてアイデアを磨き上げます。

プロンプト例:

ステップ4:AIと「提供物(商品・サービス)」のアイデアを具体化する – アイデアマージ機能の活用

発想した「ペインリリーバー」と「ゲインクリエイター」は、それらを顧客に届けるための具体的な「商品・サービス」という形に落とし込む必要があります。ここでは、AIに複数の要素を組み合わせる「アイデアマージ」の役割を担ってもらいましょう。

  • 目的: 発想した「ペインリリーバー」と「ゲインクリエイター」の要素を効果的に組み合わせ、ターゲット顧客のジョブを解決する具体的な「商品・サービス」のコンセプト案を複数生成し、比較検討や統合を通じて最適なものを見つけ出す。
  • AI活用法:
    1. ステップ2と3で生成された有望なペインリリーバー案とゲインクリエイター案のリストをAIに提示します。
    2. アイデアマージ①(バリエーション生成): 「これらのペインリリーバーとゲインクリエイターの要素を様々に組み合わせた、新しい商品・サービスのコンセプト案を複数(例:5つ)提案してください。意外性のある組み合わせも歓迎します」と依頼します。
    3. アイデアマージ②(MVP案の比較): AIが提案した複数のコンセプト案に対し、「これらのコンセプト案を、実現可能性、独自性、ターゲットペルソナへの訴求力の観点から比較し、最もMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)として有望なものを2つ選んでください。その理由も説明してください」と依頼します。
    4. アイデアマージ③(複合案の統合提案): 「選ばれた2つのMVP案の良いところを組み合わせ、さらに強力な複合的な商品・サービスコンセプトを1つ提案してください。その際、ターゲットペルソナが最も価値を感じるであろうポイントを強調してください」と依頼します。
    5. AIの提案に対し、「この商品/サービスは、ペルソナの最も重要なジョブを解決できるか?」「実現可能性はどうか?」「競合製品と比較した場合の優位性は?」など、批判的な視点も交えて検討します。

プロンプト例 (アイデアマージ① – バリエーション生成)

ステップ5:AIと価値提案を「言語化」し、磨き上げる – ペルソナ言語での再生成

素晴らしい価値も、それが顧客に伝わらなければ意味がありません。

ここでは、創り出した価値を、ターゲット顧客(ペルソナ)に最も響く、明確で魅力的な言葉(価値提案ステートメント、キャッチコピーなど)にしていきます。

さらに、それを「ペルソナの語り口」で再構成することで、感情的な共感を深めます。

  • 目的: 創り出した価値を、ターゲット顧客(ペルソナ)に最も響く、明確で魅力的な言葉(価値提案ステートメント、キャッチコピーなど)にする。さらに、それを「ペルソナの語り口」で再構成し、感情的共感を深める。
  • AI活用法:
    1. ターゲット顧客(ペルソナ)、解決するジョブ(ペイン/ゲイン)、提供する商品/サービス、そして(もしあれば)競合との違いといった情報をAIにインプットします。
    2. 「これらの情報に基づいて、ターゲット顧客の心に響く価値提案ステートメントを複数作成してください」と依頼します。
    3. ペルソナ言語での再生成: AIが生成した価値提案ステートメントに対し、「この価値提案を、ペルソナである[ペルソナ名]が友人に話すとしたら、どのような言葉遣いや表現で語ると思いますか?[ペルソナ名]の語り口で書き直してください」と依頼します。これにより、価値提案が本当に顧客視点になっているかを確認し、より共感を呼ぶ表現に近づけることができます。
    4. 第1回で紹介した「Few-shotプロンプト」で望ましい表現の例を示したり、「リフレクションプロンプト」でAIに自己評価させ、表現を改善させたりします。

プロンプト例 (ペルソナ言語での再生成)

ステップ6:AIと価値提案の「独自性」と「共感度」を検証する – 逆プロンプトの活用

作成した価値提案が、本当に顧客の心に響き、競合との違いを明確に打ち出せているか。この最終検証にもAIを活用できます。特に「逆プロンプト」というテクニックは、顧客視点での評価に有効です。

  • 目的: 作成した価値提案が、競合と比較して本当にユニークで、かつターゲット顧客(ペルソナ)の心に刺さるかどうかを、AIにペルソナ視点で評価させることで客観的に検証する。
  • AI活用法:
    1. 独自性検証: 自社の価値提案と、主要な競合他社の価値提案(Webサイトや広告から収集)をAIに提示。「これらの価値提案を比較し、当社の価値提案が持つ独自性、強み、そして顧客から見て魅力的に映るであろうポイントを分析してください。また、もし弱点や改善すべき点があれば指摘してください」と依頼します。
    2. 共感度検証(逆プロンプト): 作成した価値提案をAIに提示し、「あなたは[ペルソナ名]です。この価値提案を聞いて、率直にどう感じますか?特に心に刺さる点、逆に不安に感じる点、もっと詳しく知りたいと思う点を具体的に述べてください」と、ペルソナになりきってフィードバックさせます。これにより、価値提案が本当にターゲットに響くか、懸念点はないかなどを探ることができます。

プロンプト例 (共感度検証 – 逆プロンプト)

ステップ7:AI活用のポイントと注意点 – 視覚化による理解促進

価値提案を創り上げるプロセス全体を通して、AIを効果的に活用するためのポイントと注意点をまとめます。

  • インプット情報の質と具体性が鍵: AIに与える顧客情報(ペルソナ、ジョブ、ペイン、ゲイン)や自社の強みが具体的であるほど、AIの提案も的確になります。ゴミを入れればゴミが出てくる(Garbage In, Garbage Out)の原則を忘れずに。
  • AIは発想と整理のパートナー: AIは多様なアイデアや表現案を効率的に生成してくれますが、最終的にどの価値を、どのように提供するかという戦略的な判断、そしてその価値に魂を込めるのは人間の役割です。
  • 反復と対話: 一度のプロンプトで完璧な答えを求めず、AIとの対話を重ね、深掘りや修正を繰り返しながら価値提案を磨き上げていくことが重要です。AIを「壁打ち相手」として活用しましょう。
  • 複数モデルの活用: アイデア発想にはClaude、論理構成や分析にはGPT-4oやGeminiといったように、タスクの性質や得意分野に応じてAIモデルを使い分けることも、より質の高いアウトプットを得るための有効な手段です。
  • 生成AIを活用した視覚化の提案:
    • 目的: 生成された価値提案や商品コンセプト、競合との比較などを、AIを使って簡易な図(ポジショニングマップ、ペイン・ゲインマップ、価値提案キャンバスの要素など)に変換し、視覚的に理解しやすくする。チーム内での共有や、顧客への説明資料作成のヒントにもなります。
    • AI活用法: AIに価値提案のテキスト情報や競合情報などを与え、「この価値提案の市場におけるポジショニングを、縦軸を[軸名1]、横軸を[軸名2]としてマッピングし、テキストベースで図示してください」といった指示を出します。あるいは、ペインとゲイン、それに対する自社の提供価値の関係性を図で示すよう依頼します。(※現時点では高度な図の直接生成は難しい場合もありますが、構造化されたテキスト出力から手動で図に落とし込む際の良い下書きになります。)
  • プロンプト例 (ポジショニングマップ風テキスト出力)
役割: 
あなたはマーケティング戦略の可視化が得意なアナリストです。

当社の価値提案の主要要素: [価値提案のキーワードや特徴をリストアップ]
競合Aの価値提案の主要要素: [競合Aの価値提案のキーワードや特徴をリストアップ]
競合Bの価値提案の主要要素: [競合Bの価値提案のキーワードや特徴をリストアップ]

タスク: 上記の価値提案が、顧客にとってどのような位置付けになるかを、以下の2軸で評価し、それぞれの位置づけとそう判断した理由を説明してください。

軸1: 顧客ニーズへの適合度(高い/低い)
軸2: 提供価値の独自性(高い/低い)

出力形式:
- 当社: [軸1評価(理由)], [軸2評価(理由)]
- 競合A: [軸1評価(理由)], [軸2評価(理由)]
- 競合B: [軸1評価(理由)], [軸2評価(理由)]

まとめ:AIと共に、顧客の心を射抜く「最高の約束」を創る

今回は、AIを活用して顧客のペインを解消し、ゲインを創出し、それらを具体的な商品・サービスへと落とし込み、最終的に顧客に響く「価値提案」へと磨き上げるプロセスを、具体的なステップとAI活用法、プロンプト例と共に探求しました。

生成AIは、情報整理、アイデア発想、言語化、そして客観的な評価といった多岐にわたる側面から、あなたの価値提案創造を強力にサポートしてくれます。

AIとの協創を通じて創り上げられた価値提案は、今後のビジネスモデルキャンバスの各要素を設計していく上での、揺るぎない「核」となります。

この記事を通じて、読者の皆さんが「自分でもAIを使って価値提案を磨けそうだ!」と感じ、具体的なアクションを起こすきっかけとなれば幸いです。

次回予告: 【第6回】「ビジネスモデルキャンバス(BMC)をAIと描く:事業の全体像を可視化する」では、今回定義した強力な価値提案を中心に、ビジネスモデルの他の構成要素(チャネル、顧客との関係、収益の流れなど)をAIと共に設計し、事業の全体像を具体化していきます。

価値提案という「核」が定まった今、いよいよビジネス全体の設計図を描く旅が始まります!

Empowering Your Vision, Building the Future.