AIエージェントの導入率は、大企業ではこの半年で1割から5割へ急伸しました。ただし、導入した企業の4社に3社は運用コストをリアルタイムに把握できていません。追いかけるべきは他社の導入率ではなく、自社の「使いこなし度」です。
皆さんこんにちは!AIコンサルタント(中小企業診断士)の津田です。
前回(AIエージェントが企業戦略の話題になっている理由)は、AIエージェントが「聞けば答える道具」から「頼めば任せられる相手」へ変わりつつある、という変化を確認しました。今回はその続きとして、「実際どれくらいの企業が使えているのか」を数字で確かめるつもりでした。
ところが、調べ始めてすぐに気づいたことがあります。この分野は、数字の鮮度がきわめて短いのです。2025年末時点の調査と2026年春以降の調査とでは、まるで別の世界の話のように数字が違います。AIエージェントが本当に盛り上がり始めたのは2026年に入ってから、特に春以降だからです。今回は、この「半年での激変」そのものを数字で追いかけます。
海外の一次情報を読み解く
まず、半年前の起点となる数字から確認します。Deloitteが2025年12月10日に公開した「Tech Trends 2026:The agentic reality check」によれば、当時、agentic AIを「本番稼働」させている企業はわずか11%でした。「パイロット(試験導入)中」が38%で、大半の企業は試している段階にとどまっていました。
次に、2026年3月25日にMcKinseyが公開した「State of AI trust in 2026」(調査は2025年12月〜2026年1月、約500組織対象)を見ると、62%の組織が少なくともAIエージェントの実験に着手しており、23%はどこかの業務でスケール(本格展開)させていると回答しています。
そして最新の数字です。KPMGが2026年6月24日に公表した「AI Quarterly Pulse Survey(Q2 2026)」(調査期間2026年4月28日〜5月25日、対象は年商10億ドル以上の米国企業の経営層204名)によれば、AIエージェントを導入・活用している企業は53%。すでに半数を超えました。さらに注目すべきは、複数のAIエージェントをワークフロー横断で連携させている企業が、わずか1四半期で9%から18%へ倍増したことです。前回紹介したGoogle Cloudの「マルチエージェント連携はこの先の話」という見立てが、大企業ではもう現実に動き始めています。
ただし、KPMGの同じ調査には、もう一つの顔があります。自社のAIの運用に何がいくらかかっているかを、完全かつリアルタイムに把握できている企業は、わずか26%しかありません。AIの利用料は使った分だけ増える従量課金が中心で、月額固定のソフトと違い「使うほど請求額が変わる」ため、コストの把握自体が新しい課題になっているのです。またKPMGが同時期に行ったグローバル調査(20カ国・地域の経営層2,145名対象)では、AI運用コストを完全に可視化できている組織は、そうでない組織に比べて「ROI(投資対効果)が確立できた」と報告する割合が5倍(15%対3%)という結果も出ています。導入は5割を超えた。しかし、その中身を数字で把握し、投資に見合う成果を出せていると言い切れる企業は、まだ一部にとどまるということです。
「入れること」と「使いこなすこと」は別の問題。導入した米国大企業でも、AI運用コストをリアルタイムに把握できているのはわずか26%です。
立ち止まって考える:日本の中小企業にどう関係するか
まず、一つ注意を入れておきます。この3つの数字は、実施主体も質問の定義も対象企業も異なる別々の調査です。特にKPMGの53%は「年商10億ドル以上の米国大企業」の数字であり、日本の中小企業の現状をそのまま表すものではありません。「11%→23%→53%」と並べて同一指標の推移のように読むのは正確ではない、という留保はきちんと付けておきます。
それでも、方向性ははっきりしています。半年前まで「本番で使えているのは1割」だった世界が、いまや大企業では「導入5割・連携も倍増」の世界に変わりつつある。様子見できる踊り場の期間は、想定より短いかもしれません。数字の変化のスピードそのものが、そのことを教えてくれています。
一方で、中小企業が見るべきなのは、53%という導入率のほうではないと私は考えています。この数字は年商10億ドルを超える米国大企業のものであり、そのまま自社と比べる意味はあまりありません。参考になるのは、26%というコスト可視化率が示す"つまずき方"のほうです。
導入した大企業ですら、4社に3社は「AIを動かすのに結局いくらかかっているのか」をリアルタイムには掴めていません。かかっているお金が見えなければ、費用対効果は測れません。費用対効果が測れなければ、続けるか、広げるか、やめるかの判断もできません。導入率がどれだけ伸びても、この状態を「使いこなせている」とは呼べないはずです。「入れること」と「使いこなすこと」は別の問題だということを、26%という数字が示しています。
そして、この「業務とお金の流れの把握」は、資金力の勝負ではありません。部門やシステムが入り組んだ大企業ほど、全体像の把握はかえって難しくなります。逆に、業務の数が少なく、経営者が全体を見渡せる中小企業のほうが、把握しやすい面すらあります。ここは、規模の小さい会社が不利とは限らない領域です。
自社が今どの段階に近いか、簡単な目安を3つ挙げておきます。
- 特定の1業務で、AIに「どこまで任せるか」の条件をまだ言葉にできていない ── これは「探索中」に近い段階です。「どこまで任せるか」の条件とは、例えば「問い合わせメールの返信は、下書き作成までAIに任せて、送信前に必ず人が確認する」「請求書のチェックは、金額の突き合わせと不一致リストの作成まで任せる」といった線引きのことです
- 条件は決めたが、人がすぐバックアップできる体制のまま試している ── これは「パイロット中」に近い段階です。例えば「AIが作った返信の下書きを、当面は全件、担当者が読んでから送る」「AIの見積計算と並行して、従来のExcelでも計算して答え合わせをする」といった、失敗してもすぐ人が引き取れる状態で運用していることです
- その業務の一部が、日常的にAI任せで回り始めている ── これは「本番展開」に近い段階です。例えば「定型的な問い合わせへの返信は、確認なしでAIが送るのが当たり前になっている」「月次の売上集計レポートは、AIが作ったものをそのまま会議で使っている」といった状態です
3つとも当てはまらなくても構いません。今、自社がこのどこに立っているかを言葉にできるだけで、次に何をすべきかが具体的になります。
自社が今どの段階に近いか。「探索中」「パイロット中」「本番展開」──3つの目安に照らして考えてみてください。
今の自分の仮説・気づき
今回の数字を読んで、今の時点で私が持っている仮説は、「追いかけるべきは他社の導入率ではなく、自社の1業務の使いこなし度」だということです。導入率の数字は半年で古くなります。この記事の53%という数字も、次の四半期には変わっているはずです。しかし、「1つの業務で、条件を決めて、任せて、かかった手間と返ってきた成果を把握する」という使いこなしの型は、数字がどう動いても古くなりません。大企業の74%がつまずいている「コストの見える化」を、たった1業務でいいから自社でやってみる。それが、激変する数字に振り回されない一番の方法だと考えています。
もう一つ、軽く触れておきたいことがあります。KPMGの同じ調査では、AIに対する従業員の抵抗が1四半期で5%から20%へ増え、その理由の筆頭は「信頼・倫理への懸念」(53%)でした。信頼に慎重であること自体は健全です。ただ、「AIは難しい」「信頼できない」と言って様子見をしているあいだに置いていかれるのは、人と組織かもしれない。数字は半年でこれだけ動きました。使いこなしの壁の正体はおそらく技術ではない——この直感は、第4回「答えは技術でなく"人"」で正面から掘り下げます。
読者への問いかけ
先ほどの3つの目安に照らして、あなたの会社は「探索中」「パイロット中」「本番展開」のどの段階に近かったでしょうか。そしてもう一つ。もしすでにAIを使い始めているなら、その業務にかかっている手間と、返ってきている成果を、数字で言えるでしょうか。導入5割時代の分かれ目は、たぶんそこにあります。
※本記事は海外の公開レポートを著者が読み解き、日本の中小企業向けに翻訳・考察したものです。
※本記事はAIを活用して作成しています。