「AIをうまく使えない」原因の多くは、プロンプトの技術ではなく課題設定力にあります。「発見する力」と「言葉にする力」の2つを、4点セットと3段階のプロセスで鍛える方法をお伝えします。
皆さんこんにちは!AIコンサルタント(中小企業診断士)の津田です。
前回の記事「新人にAIを教える前に、教えるべき3つのこと」で、AIと働くために必要な力として「課題を言語化する力」「出力を検証する力」「業務を分解する力」の3つを挙げました。このうち最初の「課題を言語化する力」について、もう少し掘り下げてほしいというお声をいただきました。今回はここに絞って、具体的にどう鍛えるかまでお伝えします。
「モヤモヤ」を「言葉」に変える2つの力
「AIをうまく使えない」——多くの方がここでつまずきますが、原因の多くはプロンプトの技術ではありません。課題設定力、つまり「何をAIに解いてほしいのか」がまだ自分の中で言葉になっていないだけなのです。
課題設定力というと難しく聞こえますが、その中核は「気づいたことを言葉にする力」です。以下、AI活用の入り口となる課題設定力が、どんな要素で成り立っているかを見ていきます。
✓ AI活用の入り口となる課題設定力は、まず「発見する力」と「言葉にする力」で構成される
- 発見する力——業務の中で違和感や理想の状態に気づく力
- 言葉にする力——気づいたことを、他人やAIが動ける形に定義する力
どちらか一方だけでは機能しません。発見できても言葉にできなければ誰にも伝わりませんし、言葉にする型を知っていても、そもそも何かに気づいていなければ書く中身がないからです。この記事では特に、多くの人がつまずく「言葉にする力」の部分を掘り下げます。
発見する力:違和感でも、理想像でもいい
ここで大事なのは、発見の出発点は「問題」でなくてもよいということです。業務の中で何かに気づくパターンは、大きく2つあります。
- 違和感に気づくパターン——現状に対して「なんかおかしい」「うまくいっていない気がする」と感じる
- 理想像に気づくパターン——今のところ大きな問題はないが、「こういう状態を目指したい」「もっとこうできるはずだ」と思いつく
前者は原因分析(なぜ売上が落ちたのか、など)に向いています。後者は、問題の有無に関わらず「達成したい水準」を思い描く力です。AI活用の場面では、実はこの後者の方が出番が多いと感じています。新しい挑戦や改善のアイデアは、問題が起きてからではなく、日々の業務の中でふと生まれるものだからです。
どちらのパターンでも、発見した時点ではまだ言葉になっていません。次のステップで、これを言葉にします。
言葉にする力:4点セットで定義する
発見したことを、次の4点で埋めてみてください。
✓ 言語化の4点セット
- 対象(誰の・何についての話か)
- 目的(なぜこれをやるのか)
- 現状(今どんな状態か)
- ゴール(本当はどうありたいか)
この4点の中で、特に見落とされがちなのが「ゴール」です。AIは、目指す状態や制約条件が明確であるほど、的確な提案をしやすくなります。現状の説明がどれだけ丁寧でも、ゴールが曖昧なままでは、AIも人も「何をもって完成とするか」を判断しづらいのです。
4点が埋まった文になっていれば、言語化できている状態です。逆に「AIをうまく使えない」のような、対象もゴールもない文は、まだ言語化以前の「感想」の段階です。
気づきを言葉にするまでの3段階
「発見する」から「言葉にする」までは、一足飛びにはいきません。段階を踏む作業です。
第1段階:気づいて書き出す
「なんか会議が長い気がする」——この段階では曖昧でOKです。違和感でも理想像でも、事実と感情を分けずに、まず出すことが大切です。多くの人はここで止まってしまい、曖昧なまま誰かに丸投げするか、放置します。
第2段階:事実と解釈を分ける
「会議が長い(解釈)」の裏にある事実は何か。「同じ議題を毎回蒸し返している」「決を取らずに時間だけ過ぎている」など、観察できる事実に落とすと、輪郭が見えてきます。
第3段階:目指す水準を言葉にする
「どうすれば、議題ごとに10分で結論を出せる会議にできるか?」のように、目指す状態を具体的な言葉にします。ここまで来て初めて、人もAIも動き出せます。
なぜAI時代に決定的に重要なのか
AIは「答える力」は持っていますが、「何を、どんな水準まで解けばよいか」は人間側の仕事だからです。
AIの出力の質は、入力された課題設定の解像度で決まります。「集客の方法を教えて」と聞けば一般論が返り、「30代女性向けの足の悩み解消グッズを、広告費月3万円で試験販売したい。最初の10人に届く方法は?」と聞けば実用的な答えが返ります。プロンプトの技術より前に、この解像度の差が結果を分けます。
そして、発見できても言葉にできない課題は、AIにも部下にも支援機関にも相談できません。これは新人教育に限らず、経営相談の現場でも同じです。
「何を目指したいか言えた時点で、課題の半分は解決している」とよく言われるのは、このためだと私は捉えています。
発見はできても言葉にできない人
💬 著者の現場観察
支援の現場でわかったことがあります。自分がやろうとしていることを言葉にするのが苦手な方は、思っている以上に多くいらっしゃいます。特定の職種に限った話ではありませんが、日頃から頭で考えたことを言葉にする機会が少ない方に、この傾向がよく見られます。
言語化そのものに慣れていないと、いざという時に難しく感じてしまうのです。
また、なんとなく目の前の作業をこなしながら進めるタイプ——目指す水準から逆算せずに手を動かし始めてしまうタイプの方は、他人にもAIにも「指示ができない」状態に陥りやすい傾向があります。目指す水準が自分の中で言葉になっていないので、当然といえば当然です。
これは能力の差ではなく、習慣の差です。次の章で、その習慣をどう作るかをお伝えします。
鍛え方はシンプル。「作業前に言葉にする」習慣
特別な訓練は必要ありません。日常の型を少し変えるだけで、鍛えられます。3章の4点セット(対象・目的・現状・ゴール)は、AIへの相談だけでなく、そのまま日々の作業にも使えます。
作業に取り掛かる前に、対象・目的・現状・ゴールを言葉にする
手を動かし始める前に、「誰の・何についての作業か(対象)」「なぜこれをやるのか(目的)」「今どういう状況なのか(現状)」「どういう状態にしたいのか(ゴール)」の4つを言葉にしてみてください。ここで詰まる箇所が見つかったら、そこが「まだ発見できていない部分」です。この「詰まる箇所の発見」こそが、言語化トレーニングの核心です。
なお、必ずしも書く必要はありません。頭の中で考えていることを、ひとことでも言葉にしてみる——独り言のようにつぶやくだけでも効果があります。「書く」ことにこだわると、それ自体がハードルになって続かない人もいるからです。まずは「言葉にしてみる」という行為自体を習慣にすることが大切です。
AI自身を言語化の壁打ち相手にする
「私はまだ、何を目指したいのかうまく言葉にできていません。質問を1つずつして、私の目指す状態を明確にしてください」と頼むと、AIが問診役になってくれます。新人教育の場面でも、まずこの使い方から教えると効果的です。
まとめ
課題設定力とは、「発見する力」と「言葉にする力」の掛け算です。違和感でも理想像でも、業務の中で何かに気づき、それを「対象・目的・現状・ゴール」の4点で定義できて初めて、AIも人も動き出せます。
前回の記事で触れた「出力を検証する力」「業務を分解する力」も、この課題設定ができて初めて機能します。
AI活用がうまくいかないとき、多くの場合はプロンプトの問題ではなく、課題設定の問題です。まずは自分が何を目指したいのかを言葉にすること。それがAI活用の第一歩になります。
今日、頭の中にある違和感や理想像を一つ、4点セットで書き出すところから始めてみてください。
「自分では書けない箇所がどうしても見つからない」「壁打ちしながら一緒に整理してほしい」——そんなときは、無料相談でご一緒に言語化のお手伝いをします。
よくある質問
Q. 課題設定力は、どうすれば身につきますか?
特別な訓練より、日常の型を変えることが近道です。作業に取り掛かる前に「対象(誰の・何についてか)」「目的(なぜやるのか)」「現状」「ゴール(どうありたいか)」の4つを言葉にする習慣をつけると、詰まる箇所が見つかり、それが言語化トレーニングの核心になります。書くのが難しければ、頭の中で考えていることをひとこと言葉にしてみるだけでも構いません。
Q. 課題設定は、問題が起きてからでないとできませんか?
いいえ。発見の出発点は違和感(問題)でも理想像でも構いません。今のところ大きな問題がなくても「こういう状態を目指したい」と思いついた時点で、それは立派な課題設定の入り口です。むしろAI活用の場面では、この理想像からの発見の方が出番が多いと感じています。
Q. AIに質問する前に、うまく言葉にできないときはどうすればいいですか?
AI自身を壁打ち相手にする方法があります。「まだ目指したい状態をうまく言葉にできていません。質問を1つずつして、私の目指す状態を明確にしてください」と頼むと、AIが問診役になり、対話しながら輪郭がはっきりしていきます。