ここからは、現場で受注や事務を担当している方に向けた実践編です。経営者の方は、担当者の方に読んでもらうつもりでお読みください。

舞台は、従業員30名ほどの金属部品加工会社「ミナト精工」。受注事務を10年続けている佐藤さんが、FAX注文から請求までの仕事を、Claudeを使って1つずつ変えていきます。1回目は、すべての出発点となる「自分の仕事の棚卸し」です。

佐藤さんの困りごと ― 「私が休んだら、たぶん誰も分からない」

月曜の朝、出社するとFAXのトレーに注文書が12枚たまっていました。取引先を確認して、急ぎのものから品番を読み替えて、過去の単価を調べて……。気づけばお昼です。

先週、社長から「佐藤さん、AIを使って受注を効率化してみてよ」と言われました。さっそくClaudeに「受注業務を効率化する方法を教えて」と聞いてみたのですが、返ってきたのは「受発注システムの導入」「RPAで入力を自動化」といった、どこかで聞いたような話ばかり。間違ってはいないけれど、明日からの私の仕事は何も変わりません。

そもそも、私の仕事のどこに時間がかかっているのか、自分でもうまく説明できないんです。A社は掛け率85%、B社は特別価格の品番がある、C社の注文書は古い品番で書いてくる……。こういうことは全部、私の頭の中にあります。正直、私が1週間休んだら、たぶん誰も分かりません。

やってみた ― AIに「質問する側」になってもらう

そこで、聞き方を逆にしてみました。私がAIに質問するのではなく、AIに私へ質問してもらうのです。チャット画面に入力したのは、こんな文章です。

あなたは中小企業の業務改善を支援するコンサルタントです。
私は従業員30名の金属部品加工会社で、受注事務を担当しています。
私の仕事のうち、AIに手伝ってもらえる部分を見つけたいのですが、
自分では何をどう説明すればいいか分かりません。

これから私に質問をして、私の仕事を棚卸ししてください。
・まず1日・1か月の仕事の全体の流れを聞き、そのあとで1つずつ深掘りしてください
・質問は1回に1つだけにしてください
・専門用語は使わず、現場の言葉で聞いてください
・「なぜそうしているのか」「誰の判断が必要か」も聞いてください
・十分に聞けたら、仕事の一覧を
 「作業名/頻度/かかる時間/使う資料/判断が必要な点」の表にまとめてください

最初の質問は「朝出社してから帰るまで、どんな順番で仕事をしていますか?」でした。注文の受付、見積、手配、納品書……と答えていくうちに、ふだん意識していなかった作業がいくつも出てきます。全体を聞き終えると、今度は1つずつ深掘りです。「FAXが届いてから、最初に何をしますか?」「お客さんの品番を、うちの品番に読み替えます」と答えると、「その読み替えは、何を見て判断していますか?」と聞かれました。

「対応表と、過去の注文と……あとは、なんとなくです」。そう打ちながら、自分でもハッとしました。

質問は20問ほど続き、30分くらいで仕事の一覧表ができあがりました。並んだ作業は14個。そして「判断が必要な点」の列には、「佐藤さんの記憶」という言葉が何度も出てきました。

最後に、もう1つお願いしてみました。

この表の中で、AIに手伝ってもらうと効果が大きい作業を3つ選んでください。
それぞれ、毎回そのまま使える指示文(プロンプト)も作ってください。

選ばれたのは「品番の読み替え」「取引条件の確認」「月末の請求漏れチェック」でした。指示文も、自分で考えるよりずっと丁寧なものができました。

受注から請求までの業務の流れと、連載で扱う回 逆インタビューで棚卸しした受注〜請求の8つの作業を左から右、上段から下段の順に示し、それぞれの作業を連載の何回目で扱うかを番号で添えた図。 05(今回)逆インタビューで、仕事の全体を棚卸しする ①注文を受ける FAX・電話(06) ②条件・履歴の確認 掛け率・締め日(07) ③新規先の確認 初めての取引先(08) ④見積を作る 単価・計算(09) ⑤発注受領・手配 在庫・直送・製造(10) ⑥出荷日を決める 営業の約束(11) ⑦出荷・納品書 Excelで作成(12) ⑧請求 請求漏れチェック(12) 13 やり方を会社の資産にする / 14 どこまでAIに任せるかを決める
受注から請求までの流れと、この連載で扱う回。棚卸し(05)で全体を見える化してから、1つずつ変えていきます。

なぜ「聞かれる」と仕事が見えるのか

佐藤さんが使ったのは、AIに質問する側に回ってもらう逆インタビューという使い方です。普段は人間が質問してAIが答えますが、その役割を入れ替えます。

最初の「受注業務を効率化する方法を教えて」で一般論しか返ってこなかったのは、AIが悪いのではありません。Claudeを開発するAnthropicの公式ドキュメントには、次のように書かれています。

公式ドキュメントより①
Claudeは "a brilliant but new employee who lacks context on your norms and workflows"
(訳:とても優秀だけれど、職場の流儀や仕事の流れを知らない新入社員)のようなものと考えてください
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Be clear and direct)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices

同じ箇所では、やってほしいことを細かく説明するほど結果がよくなる、とも書かれています。佐藤さんの会社の事情を知らない新人に「効率化の方法は?」と聞けば、教科書どおりの答えになるのは当然です。

ところが、ここに落とし穴があります。説明すべきことが、本人には分からないのです。10年続けてきた仕事ほど、判断は無意識になり、言葉になりません。

逆インタビューは、この壁を越える方法です。この使い方は、Anthropicも公式に勧めています。

公式ドキュメントより②
"Claude asks about things you might not have considered yet"
(訳:まだ考えていなかった点についても、Claudeが質問してくれます)
出典:Claude Code Docs「Best practices for Claude Code」(Let Claude interview you)
https://code.claude.com/docs/en/best-practices

これはプログラム開発向けの製品(Claude Code)の解説で、大きな機能を作る前にClaudeにインタビューさせて仕様をまとめる方法として紹介されています。対象は違っても、考え方は受注業務の棚卸しでも同じです。業務改善のために「何を聞けばいいか」はAIが知っています。人間は、聞かれたことに答えるだけでいい。必要なのは「説明する力」ではなく「答える力」なので、ITが苦手な方でも進められます。これが、普通に質問するだけでは得られない、このやり方ならではの価値です。

支援の現場でも、「業務を説明してください」とお願いすると言葉に詰まる担当者の方が、質問を重ねていくと「そういえば、これもやっていました」と次々に思い出して話してくださいます。人は説明するより、聞かれて答えるほうが記憶を引き出しやすいのです。私自身も、自分のサービスや今後の方向性を考えていて頭の中が整理できていないときは、Claudeに質問してもらいながら考えをまとめています。

もう1つの効果は、属人化している場所が浮かび上がることです。佐藤さんの表で「判断が必要な点=佐藤さんの記憶」が並んだ作業こそ、引き継げない仕事であり、同時にAIに手伝ってもらう候補でもあります。支援の現場でも、業務を可視化すると「この判断はこの人の頭の中にしかない」という作業が必ず見つかります。

ワンポイントとして、最後に「指示文も作って」と頼んだのは、Claudeにプロンプトを書かせる使い方です。棚卸しの会話でClaudeは佐藤さんの仕事の事情をすでに知っているので、事情を踏まえた指示文を作れます。

棚卸しでつまずきやすいのは、いきなり細かい話から始めてしまうことです。最初から1つの作業を掘り下げると、全体のどこにその作業があるのか分からなくなり、話があちこちに飛びます。プロンプトで「まず全体の流れ、そのあとで深掘り」と順番を指定したのはそのためです。質問を「1回に1つ」にしたのも、まとめて聞かれると答えが雑になりやすいからです。

ただし、限界もあります。AIは聞いたことしか知りません。月に1回しか発生しない作業など、会話で出てこなかった作業は表に載りません。できあがった表は、月末や繁忙期の仕事を思い出しながら見直してください。

佐藤さんの不安 ― 「AIに仕事を取られるんじゃないの?」

正直に言うと、表を見ながら少し怖くなりました。こんなにAIに任せられるなら、私はいらなくなるのでは、と。

佐藤さんのような不安は、私が支援している現場でもよく耳にします。AI活用の話をすると、担当者の方に警戒されることは珍しくありません。そんなとき、私はいつもこうお聞きしています。「空いた時間を、お客さんのためや、もっと創造的なことに使えますよ。佐藤さんは何をしたいですか?」

棚卸しの表をもう一度見てみてください。AIに手伝ってもらう候補になったのは、「探す」「照合する」「転記する」作業です。一方で、「この取引先にはこの条件で出す」「この納期なら工場に無理を言える」といった判断は、佐藤さんにしかできません。AIに任せるのは前者で、判断と最終確認は人が持ちます。この表は、佐藤さんの仕事の価値を見える化したものでもあります。

そして私は、無理に一気にAI化を進めないようにしています。ご自身のスキルに合わせて、一歩ずつ進めるのがいちばんです。急ぐと、何がどう動いているのか分からなくなってしまうからです。この連載も、1回に1つずつ進めていきます。

なお、今回の棚卸しは業務の流れを話すだけなので、取引先名や単価などの具体的な情報を入れる必要はありません。お客さんの情報をAIに入れるときの注意点は、次回くわしく扱います。

自社でやるなら

まずは30分、上のプロンプトをそのまま使って、ご自身の仕事を棚卸ししてみてください。業種や担当業務の部分だけ書き換えれば使えます。できあがった表は、上司や同僚と共有すると「その作業、私もやっている」という重複が見つかることもあります。

次回は、表で真っ先に名前が挙がった「FAX注文書の品番の読み替え」を、読み間違いを防ぎながらAIに手伝ってもらう方法です。

※本記事はAIを活用して作成しています。