「なぜ自分がこの事業をやるのか」を、今すぐ一言で説明できますか?この問いに答えられるかどうかが、壁にぶつかったときに踏みとどまれるかどうかの分かれ目になります。AIを使えば、キャリアの中に眠っていた「言語化できていなかったWhy」を短時間で掘り起こすことができます。

皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

今回は、創業者向けシリーズのいちばん最初のステップとして、「なぜやるのか」を言語化するプロセスを取り上げます。アイデアを探したり、事業コンセプトを作ったりする前に、まずここを押さえておくことが重要です。

「なぜやるのか」が曖昧なまま進むと何が起きるか

多くの方が起業を考えるとき、「何をやるか」から考え始めます。しかし、「何をやるか」は時間とともに変わります。市場が変われば提供するサービスも変わる。競合が現れれば差別化のために方向を調整する必要も出てくる。

変化するたびに「これでいいのか」と迷い、気力が続かなくなるのは、「なぜやるのか」という軸が定まっていないからです。

ポイント:「何をやるか」は変わっていい。しかし「なぜやるのか」だけは変えてはいけない。この軸があれば、方法が変わっても迷わずに進めます。

シリーズのいちばん最初にこのテーマを置いたのは、そのためです。アイデアを探す前に、まず「自分がなぜやるのか」を言語化しておくことで、その後のすべての判断がブレなくなります。

Will・Can・Mustの3つの輪とは何か

「なぜやるのか」を整理するフレームワークとして、「Will・Can・Must」の3つの輪があります。

この3つが重なる場所に、あなたの「なぜやるのか」があります。1つだけでは趣味、2つだけでは片手落ち。3つが重なって初めて、持続可能な事業の軸になります。

重要なのは、この3つは「最初から明確に見えているものではない」ということです。多くの場合、Willは学生時代の漠然とした想いとして存在していても、言語化できていません。CanもMustも、実際に仕事をして、お客さんと関わる中でジワリと見えてくるものです。AIはこの「掘り起こし」のプロセスを大幅に加速してくれます。

AIで「Will」を掘り起こす――原体験を言語化する

Willを掘り起こすには、「現在やりたいこと」ではなく「ずっと変わらずにあった想い」を探す必要があります。学生時代・若い頃・職業人生の中で「なぜかこれだけは諦めなかった」「これに関わるとき不思議と力が湧いた」——そうした原体験の中にWillが眠っています。

私自身を振り返ると、学生時代から「現状を変えたいと望む人をサポートしたい」という漠然とした想いがありました。特に興味があったのは過疎地域の活性化です。でも、それがどんな形で実現されるのかは長いこと言語化できていませんでした。エンジニアとして働き、製造業の業務改革に関わり、公的機関で中小企業の支援をしてきた。キャリアを点として見ていた頃は、バラバラに見えた経験が、ある時「線」として繋がっているのに気づいたのです。「ずっと、誰かの事業が前に進む瞬間に関わりたかったんだ」と。

プロンプト例①(Willの対話式発掘)

私のWill(やりたいこと・ずっと追い求めてきた想い)を一緒に探してください。
ただし、一度にすべて聞かず、以下のルールで進めてください。

・質問は必ず1問だけしてください
・私が答えたら、次の質問をしてください
・質問は全部で4〜5問程度
・すべての質問が終わったら、「私のWillと思われるテーマや価値観」を3つ挙げて、なぜそう思うかを説明してください

では、最初の質問から始めてください。

このプロンプトを貼るだけで、AIがインタビュアーになってくれます。「学生時代に熱中したことは?」「これだけは諦めなかった経験は?」——1問ずつ答えていくうちに、自分でも気づいていなかったWillが浮かび上がってきます。AIが返してきた「一貫したテーマ」を読んで、「少し違う」と感じる部分があれば、その違和感を大切にして修正を重ねてください。正解はAIが出すものではなく、あなたが「そうだ、これだ」と感じる瞬間に生まれます。

AIで「Can」を確認する――苦にならない×評価される

Canは「得意なこと」と混同されがちですが、より正確には「苦にならないこと」と「他者から評価されること」の重なりです。得意でも苦痛を感じることは長続きしません。逆に、苦にならなくても他者に評価されなければビジネスにはなりません。

もうひとつ大切なのが「競合と比べたときに差が出る組み合わせ」です。ひとつひとつのスキルは珍しくなくても、それを組み合わせた時に「あなたにしか出せない」形になることがあります。エンジニアの経験×中小企業支援×生成AI活用、という組み合わせは、私にとってまさにそれでした。

Canを見つけるコツ:「自分は当たり前にできるが、周りの人がよく困っていること」を探してください。あなたにとって空気のように自然なことが、他者には大きな価値になっていることが多いです。

これは「自分の棚卸し」の記事でも詳しく取り上げています。棚卸しとCanの確認は、セットで進めるとより深く掘り下げられます。

AIで「Must」を確認する――誰に求められているか

Mustは「社会・顧客が必要としていること」です。いくらWillがあり、Canがあっても、誰にも必要とされなければ事業にはなりません。

Mustを確認するときの最も強いシグナルは、「実際にお客さんに話したときの反応」です。ぜひお願いしたい、と言ってもらえた瞬間——その体験が、Mustの証拠です。まだそのような体験がない方は、AIを使って仮説を立てることから始めましょう。

プロンプト例②(Mustの対話式確認)

私が「誰に求められているか(Must)」を一緒に探してください。
ただし、一度にすべて聞かず、以下のルールで進めてください。

・質問は必ず1問だけしてください
・私が答えたら、次の質問をしてください
・質問は全部で3〜4問程度
・すべての質問が終わったら、「私が求められている人・課題・分野」をまとめて、なぜそう思うかを説明してください

参考情報として、プロンプト①で出てきた私のWillは「(①の結果を貼る)」です。

では、最初の質問から始めてください。

3つが重なる場所に「なぜやるのか」がある

Will・Can・Mustの3つが出揃ったら、最後にAIに統合してもらいます。

以下の3つをもとに、「なぜ私がこの事業をやるのか」を1〜2文で言語化してください。シンプルで、誰が聞いても伝わる言葉にしてください。

【Will】(ずっと追い求めてきた想い)
【Can】(苦にならない・他者から評価される・競合と差が出る強み)
【Must】(社会・顧客から求められていること)

出来上がった1〜2文が「あなたのWhy」です。この言葉は、事業コンセプトの核になり、ホームページのキャッチコピーにもなり、初めて会う人への自己紹介にもなります。そして何より、起業してから壁にぶつかったとき、あなたが立ち返る場所になります。

Whyはすぐに完成しなくていいのです。最初は仮の言葉で構いません。実際に人に話し、フィードバックをもらいながら育てていく。そうしてジワリと言語化されていくものです。私自身も、そのプロセスを何度も繰り返してきました。

よくある質問

Q. Will・Can・Mustが全然重ならない場合はどうすればいいですか?

まず、3つがきれいに重なる人の方が少ないです。最初は「重なりが薄い」状態でも構いません。重なりが薄い箇所を認識することで、「Canを伸ばす」「Mustに合わせてターゲットを調整する」という具体的な次の一手が見えてきます。AIに「どのギャップが最も埋めやすいですか?」と聞いてみるのも有効です。

Q. キャリアが短くても、このフレームワークは使えますか?

はい、使えます。Willは職業経験よりも、学生時代・子供の頃の「好きだったこと」「夢中になったこと」「なぜか諦めなかったこと」の中にあることが多いです。Canも社会人経験に限らず、ボランティア・副業・趣味の中で培ったスキルも立派なCanです。経験の長さより、「自分に正直に向き合えているか」の方が大切です。