前回、AIエージェント導入を「技術ではなく人」の問題として捉え直し、各部署に1人の"AIエバンジェリスト"を置いて実験させるという打ち手にたどり着きました。今回向き合いたいのは、その先の疑問です。エバンジェリストに、最初にどの業務を任せればいいのか。海外レポートの答えは、意外なほど一致していました。
海外の一次情報を読み解く
結論から言うと、AIエージェントを最初に試すべき場所は、財務・調達・契約管理・法務・人事といった社内のバックオフィス機能です。Google Cloudが2026年3月26日に公開した「5 insights to build your agentic AI advantage in 2026」(著者:Anil Jain, Managing Director, Global Strategic Industries)は、そう指摘しています。顧客対応や経営判断のように判断が複雑で失敗の影響が大きい業務ではなく、定型的で判断基準が明確な業務こそ、AIエージェントを試す「低リスクな入口」だという考え方です。同レポートは、ここで小さな成功を積み重ねた組織が、次のステップである複数エージェント連携(サプライチェーンでの調達・在庫調整の自動化など)へ進んでいるとも説明しています。つまりバックオフィスは、単なる「無難な選択」ではなく、その先の展開につながる助走区間として位置づけられています。
要するに、定型業務であるほどAI自動化の効果は大きい、ということです。この指摘を裏付けるデータも出てきています。請求書処理の分野を対象にしたArdent Partners「State of ePayables」調査によれば、標準的な組織が請求書1枚の処理に平均10.89ドルかかっているのに対し、AIによる読み取り・自動照合・電子決済を組み合わせたベストインクラス企業(同じ業務を行う企業の中で、特に高い成果を出している上位企業のこと)では2.78ドルまで下がっており、コストは4分の1程度まで圧縮されています(約74%の削減)。タッチレス(人手を介さない)処理の比率も、全体平均は25%程度にとどまるのに対し、ベストインクラス企業では35%以上(調査によっては50%近くとする報告も)に達しています。
ただし、正確に言うと「低リスクな入口」なのはバックオフィス全体ではなく、その中でも「定型的で判断基準が明確な部分」に限られます。同じバックオフィスでも一様ではない点には注意が必要です。Gartner・McKinsey・IDC・Forrester・BCGなど複数の分析機関のデータを集約した2026年のレポートでは、財務・サプライチェーン・人事・法務は他の業務機能より投資回収までの期間が長く、人が最終確認する工程(ヒューマン・イン・ザ・ループ)を残す比率も高い傾向にあると整理されています。監査証跡(誰が・いつ・どんな承認や変更を行ったかを、後から確認できる形で残しておく記録)や契約上の義務に関わる業務ほど、人の目を挟む設計が合理的だという考え方です。
立ち止まって考える:日本の中小企業にどう関係するか
このデータを読んで、中小企業にとっては好都合な話だと感じました。バックオフィス業務――請求書のチェック、見積書の作成、経費精算、契約書の確認――は、多くの中小企業がまさに悩んでいる領域そのものだからです。「客数を増やす」「新市場を開拓する」といった判断の重い業務より、経理や事務作業の方が、そもそも取り組みやすいテーマです。実際、この連載でも触れてきた「見積と提案書づくりに追われて営業ができない」「同じ情報を何度も転記している」といった悩みは、まさにこのバックオフィス領域の話でした。
ただし、Google Cloudの提言をそのまま持ち込む前に、一つ確認しておくべきことがあります。海外レポートが前提にしている「バックオフィス」は、すでにある程度システム化・データ化された業務です。ERPや会計システムにデータが入っており、そこにエージェントを接続するだけで動く状態を想定しています。一方で、日本の中小企業のバックオフィスは、紙とFAXとExcelで回っているケースが少なくありません。この場合、「バックオフィスから始める」という助言の方向自体は正しくても、いきなりエージェントを導入する前に、まず業務のデータをテキスト・数値として扱える状態にする一手間が必要になります。実際、私が支援している企業にも、注文がFAXで届き、その内容を仕入先へもFAXで問い合わせ、紙の注文書を社内で回覧しながら出荷まで進めているところがあります。注文書の現物を見なければ内容を確認できず、必要なときに書類を探す手間も、途中でなくしてしまうリスクも常に抱えたままです。
この連載の第4回で紹介した「紙とFAXとExcelで業務が回っている」という状態は、まさにこの一手間が必要な典型例です。たとえば見積書ひとつとっても、担当者ごとに書式や項目の並びが違えば、AIエージェントは何を読み取ればいいのか判断できません。逆に言えば、フォーマットを一つに揃える、手書きの数字をExcelに転記するルールを決める、といった地味な整備こそが、バックオフィスをAIエージェントの「低リスクな入口」に変えるための下準備だと言えそうです。
だとすれば、中小企業にとっての「低リスクな一歩」は、Google Cloudの言う「財務・調達・契約管理・法務・人事」という機能単位ではなく、もっと小さな単位で選ぶべきだと私は考えています。前回登場したAIエバンジェリストに、いきなり「経理業務全体」を任せるのではなく、「毎週作っている見積書の下書き」「月末に集計している経費の一次チェック」「取引先ごとにバラバラな請求書フォーマットの読み取り」など、頻度が高く、やり方がある程度決まっていて、失敗しても被害が小さい一つの作業から始める。範囲を絞るほど、エバンジェリストは早く成功体験を得られ、その体験が次の業務への広がりを後押しします。バックオフィスという「方向」は海外レポートの通りで正しく、ただし「最初の一歩」の粒度は、中小企業向けにもう一段小さく刻む必要がある、というのが今回の気づきです。
中小企業にとっての「低リスクな一歩」は、財務・調達といった機能単位ではなく、「毎週の見積書」「月末の経費チェック」のような1つの定型作業まで、粒度を小さく刻むことが成功の分かれ目になります。
今の自分の仮説・気づき
今の時点での仮説は、「中小企業にとっての低リスクな一歩とは、バックオフィス機能そのものではなく、バックオフィスの中の"1つの定型作業"である」ということです。財務や調達を丸ごと任せる海外企業の事例と、週次・月次で発生する1つの書類作業から試す中小企業の一歩は、規模が違うだけで方向は同じです。この「粒度を小さく刻む」判断ができるかどうかが、エバンジェリストの最初の実験が成功体験になるか、負担になるかの分かれ目だと考えています。
読者への問いかけ
自社のバックオフィス業務の中で、「毎週・毎月、必ず発生していて、やり方がほぼ決まっている作業」を一つ思い浮かべてみてください。見積書のたたき台づくりかもしれませんし、経費精算の一次チェックかもしれません。そこが、AIエージェントを試す最初の一歩になり得ます。どの業務から手をつけるべきか一緒に整理したい場合は、無料相談も承っています。
※本記事は海外の公開レポートを著者が読み解き、日本の中小企業向けに翻訳・考察したものです。
※本記事はAIを活用して作成しています。