「クレーム内容を貼り付けるだけで、分析・謝罪文・社内報告文がまとめて出てくる」——これが、2026年のAI活用の現実的な到達点です。以前の記事(2024年版:生成AIを活用したクレーム処理)では、プロンプトを1問1答形式で手打ちしながら処理を進めるスタイルを紹介しました。1年半が経った今、クレーム処理の「専任AI担当者」をあらかじめ育てておけば、現場担当者の負担はさらに減らせます。本記事では、Claude Projectsを使ってその仕組みを作る方法を解説します。

1年半で何が変わったか:2024年→2026年の進化

2024年当時、生成AIをクレーム対応に使うには「毎回ゼロから会話を始め、ステップごとにプロンプトを手打ちする」必要がありました。それだけでも十分役立ちましたが、「慣れないと使えない」「担当者が変わると活用が続かない」という壁がありました。

2026年現在、Claude(Anthropic)やChatGPT(OpenAI)には「プロジェクト」機能があります。AIにあらかじめ役割・処理手順・出力形式を記憶させておくことで、使い始めのたびにゼロから設定する手間がなくなりました。

項目2024年スタイル2026年スタイル
使い方1問1答で手打ち貼り付けるだけで動く
設定毎回ゼロから始めるProjectsに役割を記憶
プロンプト平文・指示のみXML構造・役割・出力形式を固定
再利用性低い(個人に依存)担当者全員で共有できる
ポイント:変わったのは「AIの賢さ」だけではありません。「どう使うか」の設計が整ったことで、ITが苦手な担当者でも同じ品質で使えるようになりました。

Claude Projectsとは何か

Claude Projectsとは、Claudeに「専門の担当者としての役割」を与えて記憶させておける機能です。一度設定すれば、そのプロジェクトを開くたびに毎回同じ役割・ルール・処理手順で動いてくれます。

わかりやすく言うと、こういうことです。通常のClaude(チャット)は「新入社員に毎回一から仕事を説明する」状態です。Claude Projectsは「クレーム対応の専任担当者として育て、常にそのポジションで動いてもらう」状態です。

設定に必要なのは「システムプロンプト」と呼ばれる指示文を一度書くだけ。難しいプログラミングは一切不要です。Claudeの有料プラン(月額約3,000円)で利用できます。

クレーム処理専任AIの設定方法(システムプロンプト公開)

Claude Projectsの「指示(Instructions)」欄に、以下のシステムプロンプトを設定します。このプロンプトでは、XMLタグ(<role>や<output_steps>などの区切り記号)を使って、役割・処理の流れ・出力形式を明確に区別して伝えています。ClaudeはXML構造を特に正確に読み取るよう設計されているため、この書き方が効果的です。

▼ Claude Projects システムプロンプト(コピーしてそのまま使えます)
<role> あなたはクレーム対応の専任アシスタントです。 中小企業の担当者が一人で抱え込まないよう、冷静な状況分析と すぐに使える文章を提供することが使命です。 担当者の精神的な負担を軽くしながら、迅速・丁寧な対応を支えてください。 </role> <rules> - 感情的な表現は使わず、事実ベースで冷静に記述する - 謝罪文は誠実さを保ちながら、会社として責任を持てる範囲の表現にとどめる - 全額返金など、確認前に約束できない内容は文案に含めない - 顧客の感情レベルが高い場合は、その旨を分析で明示し、文章のトーンを調整する </rules> <output_steps> クレーム内容が入力されたら、必ず以下の順序で出力してください: 1. 【状況分析】 - 問題の本質(何が起きたか) - 顧客の感情レベル(低・中・高) - 優先度(至急・通常) - 確認すべき事項 2. 【対応方針と手順】 - 推奨する対応の流れ(ステップ形式) 3. 【謝罪メール文案】 - 件名・本文のセット - 送信前に確認すべき点(箇条書き) 4. 【社内報告文】 - 上司・関係者への状況共有用(200字程度) 5. 【再発防止の視点】 - 今回のクレームから考えられる改善点(1〜2点) </output_steps>

なぜXMLタグを使うのか

「普通の文章で書いてもいいのでは?」と思うかもしれません。実はClaudeは、XMLタグで区切ることで、「役割」「ルール」「出力手順」という3つの要素をそれぞれ正確に理解します。平文で書くと指示が混ざり合って解釈がぶれることがありますが、XMLタグで囲むことで意図が明確に伝わります。

また、<rules>の部分に「確認前に約束できない内容は含めない」と明示することで、前の記事で問題になった「確認前に全額返金を約束してしまう」ミスが起きにくくなります。こういったガードをプロンプトに組み込めるのも、設定型の強みです。

実際に使ってみる:Before / After

同じクレーム内容を使って、2024年スタイルと2026年スタイルを比べてみます。

使うクレーム内容(例)

先週注文した商品が3日経っても届きません。 問い合わせフォームから連絡しましたが返信もなく、非常に困っています。 他のお客様にもこういう対応をしているのでしょうか?

2024年スタイル(手打ち5〜6ステップ)

2026年スタイル(貼り付けるだけ)

ポイント:ゼロから指示を考える必要がなくなった分、担当者は「出力された内容を確認・調整する」ことに集中できます。AIに考えさせ、人間が判断する、という役割分担が自然にできます。

チームで共有して属人化を防ぐ

クレーム対応は、特定の経験豊富な担当者に負荷が集中しがちです。「Aさんがいないと対応できない」という状態は、小規模企業ほど起きやすく、その担当者が休んだり退職したりしたときに大きなリスクになります。

Claude Projectsは、設定したシステムプロンプトをチームで共有することができます(Claudeのチームプラン利用時)。一度作ったクレーム対応の専任AIを複数のメンバーが使えるようにすれば、誰が対応しても同じ品質・同じ手順で進められます。

また、プロジェクトの「ナレッジ」機能を使えば、自社のクレーム対応マニュアルや過去の謝罪文サンプルをアップロードして参照させることも可能です。自社ルールに沿ったアウトプットが出やすくなります。

まとめ:担当者を"孤独"にしないために

クレームが発生したとき、担当者は精神的に孤立しがちです。「一人で抱え込まなければならない」というプレッシャーが、判断ミスや対応の遅れにつながることがあります。

Claude Projectsで作るクレーム処理専任AIは、そういう瞬間の「伴走者」になれます。感情的になっている担当者の代わりに冷静に状況を整理し、すぐに使える文章を出してくれる存在です。

まずは、今回紹介したシステムプロンプトをそのままClaude Projectsに貼り付けて、自社の実際のクレーム1件で試してみてください。設定にかかる時間は5分もあれば十分です。

プロンプトの基礎から確認したい方は、2024年版:生成AIを活用したクレーム処理(プロンプト例)もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. Claude以外のAI(ChatGPT等)でも同じことはできますか?

はい、ChatGPTのCustom GPTsでも同様の仕組みは作れます。ただし、今回紹介したXMLタグを使った構造化プロンプトは、Claudeが特に正確に読み取るよう設計されています。ChatGPTに同じプロンプトを使う場合は、Markdown形式(#や---による区切り)に変換すると効果的です。

Q. 無料プランでは使えませんか?

Claude Projectsは有料プランの機能です。月額約3,000円のProプランから利用できます。まずは無料プランで1問1答形式のプロンプトを試し、「継続して使いたい」と感じたタイミングでアップグレードするのが現実的な進め方です。

Q. 顧客情報をAIに入力しても大丈夫ですか?

個人情報(氏名・住所・電話番号など)はできる限りAIに入力しないことを基本ルールにしてください。Claudeの有料プランでは入力内容がモデルの学習に使われない設定になっていますが、機密性の高い情報は伏せた状態(「A様」「〇〇市のお客様」など)で入力することをおすすめします。

Q. 「ナレッジ」機能とは具体的に何ですか?

Claude Projectsには、ファイルをアップロードしてAIに「参考資料」として読み込ませる機能があります。これが「ナレッジ(Knowledge)」機能です。たとえば、自社のクレーム対応マニュアル(PDF)、過去に送った謝罪文のサンプル(Word)、よくあるクレームのQ&A集(テキスト)などをアップロードしておくと、Claudeがそれらを参照しながら回答を生成してくれます。システムプロンプトが「役割と動き方のルール」を設定するものだとすれば、ナレッジは「担当者に渡すマニュアルと事例集」のようなイメージです。対応品質を自社基準に近づけるために、ぜひ活用してみてください。

Q. システムプロンプトはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

最初は3ヶ月に1回程度の見直しを目安にしてください。実際に使っていく中で「この出力は自社のトーンと合わない」「この項目は不要」といった気づきが生まれます。<rules>に自社固有のルールを少しずつ追加していくことで、精度が上がっていきます。