タイでのマーケティングで最初にぶつかる壁は「日本の常識が通じない」ことです。本記事では、タイへの赴任・現地業務を通じて実感した、日本とタイのマーケティングの7つの違いを解説します。消費者行動・コミュニケーション・法規制・販売チャネル・価格・物流・購買プロセスの観点から、タイ進出を検討する中小企業が陥りやすい落とし穴と現地ならではの特性を共有します。

皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

今回は、タイへの赴任・現地業務で身をもって感じた「日本とタイのマーケティングの違い」について整理します。現地での経験をもとに、タイ進出を検討する中小企業が最初に押さえておきたいポイントを7つの観点からお伝えします。

著者について:中小企業診断士として、タイへの赴任経験を持つ。現地での業務を通じてマーケティングの違いを体感し、帰国後は中小企業の海外展開支援に携わる。

タイに赴任して痛感したのは、セグメンテーションが日本より細かいという事実です。多民族による人口構成、文化的・宗教的多様性、所得格差、ライフスタイルの幅広さ——日本的なマス・マーケティングの発想では、タイ市場の複雑さをとらえ切れません。

日本とタイのマーケティングの主な違いは以下の7点です。各項目の要点を先に確認してから、詳細を読み進めてください。

観点日本タイ
① 消費者行動品質・細部・丁寧なアフターサービスを重視価格・プロモーションに敏感。SNSで顔写真と商品を投稿する文化
② コミュニケーションハイコンテキスト。暗黙のメッセージや感情的な訴求感情表現が豊か。キャラクター・お笑い・家族の絆を使ったCMが多い
③ 法規制統一された広告規制王室・アルコール・医薬品等は特別規制あり。タイ語表記の要件も
④ 販売チャネル小売・多段階流通が発達屋台・市場・大手小売・EC(Shopee/Lazada)が混在。直接取引が多い
⑤ 価格品質・ブランドで価格を正当化できる「1年で投資回収できるか」が基準。中国製との価格差が課題
⑥ 物流整備された物流インフラ地域格差あり。渋滞・未舗装路・温度管理の難しさが障壁
⑦ 購買プロセス担当者から決裁者への稟議プロセスオーナーの一声で決まることも。担当者だけでは話が進まない場合も

1.消費者の行動と価値観の違い

日本の消費者は、品質やサービス、細部への注目度が高いとされています。

製品の細部まで気を配ったパッケージデザインや、丁寧なアフターサービスは日本のマーケティングにおいて重要な要素です。

一方、海外の消費者は、価格や利便性、ブランドのイメージなどを重視する傾向があります。

部下のタイ人をみていると割引やセールなどのプロモーションに強く反応し、SNSには自分の顔写真と共に商品やサービスの投稿する傾向が強いと感じます。

2.コミュニケーションスタイルの違い

日本のマーケティングでは、ハイコンテキスト(非言語的な情報を大切にする)な文化が影響を与え、暗黙のメッセージや感情的な訴求がよく用いられます。

一方、多くの西洋諸国ではローコンテキスト(明確な情報伝達を重視する)な文化が主流で、直接的で明確なメッセージが好まれます。タイにおいては日本と比較的近いかと思いますが、もっと感情表現が豊かではないかと思っています。

テレビのCMやポスターなどを観察するとキャラクターを使ったりお笑いのタレントを起用した楽しい表現が多いですが、家族の絆を表現する感動的な広告もあります。人的販売促進も多く時間になると店員さんたちが踊りだして楽しませてくれるそんなスーパーもあります。

3.法規制の違い

広告やプロモーション活動、プライバシー保護などに関する法規制は国や地域によって大きく異なります。

たとえば、特定の製品やサービスの広告について、何を言うことができて、何を言うことができないのかは、各国で異なります。

法的に制限された表現のほか、社会常識としてタブーとされる表現は日本とは違っています。例えば王室やアルコール、たばこ、医薬品や健康食品などは注意が必要です。タイ語表記、明確性、消費者理解の容易性などの一般的なルールがあります。

4.販売チャネルの違い

日本では、小売業が非常に発達しており、店舗での購入が一般的です。

一方、タイでは地域コミュニティに密接に溶け込んだ家族経営のお店や屋台や市場といったチャネルの他、大手近代小売、オンラインショッピングがあります。

コンビニエンスストアも多くバンコクでは困りません。

オンラインショッピングはShopeeとLazadaは良く利用していると聞かれます。

販路開拓の際に良く悩むことは流通構造が分からない事です。日本は多段階の流通構造であり分業されていますが、タイは需要者が直接メーカーから仕入れるといった取引であるケースが多いです。

小売も外資系やローカル系で違う雰囲気ですし、日系も独自の強みを活かした戦略をとっています。

5.価格の違い

価格の設定が一番悩まれます。最近は円安バーツ高もあって価格差は縮小しましたが、よほど必要性重要性が高いものでなければ現地で手に入る事から厳しい。

最初に価格はいくらか聞かれ、その投資を1年で回収できる提案をしないとオーナーには会ってもらえないくらいの感覚があります。

特に中国製の値段が日本製の10分の1というくらいの価格の場合もあり厳しい部分があります。

日本で販売する製品をそのまま持っていこうとすると価格面で販売ターゲットが財閥等に限定されます。

財閥等は日本製品はとっくに情報収集しており、むしろドイツ、韓国や中国製といった競合との厳しい戦いとなります。一方、販売ターゲットを日系企業に向けると現地調達比率を高めているため、現地系を選ぶことが多いと思われます。

その激しい価格競争が繰り広げられる事から輸出では価格が合わないとなってしまうパターンは良く見られます。

6.物流インフラの違い

どこで作って、どこへ輸送するか、何を輸送するか、どうやって輸送するか、何日で、いくらで、、などを考えなければなりませんが、これも悩ましいですね。

土地や労働力の安価な場所でも輸送が陸路しか無くて、道路事情も悪い、通関にも時間がかかるとか、国内輸送だけど高速道路が伸びていない地域で道路も細く渋滞する、未舗装路区間があるなどもあります。

また温度帯管理できるトラックや倉庫がないため需要はあっても輸送できない、あるいはコストが合わない。こんな事にも直面します。

季節によっては劣化するリスクがあったり、精密機器の場合は梱包を変えなければならない場合もあります。

7.購買プロセス

一般的に購買プロセスはBtoBとBtoCでは購入までの流れや判断方法が違ってきます。BotBの場合、日本では担当者から調整されて決済者に上がっていく頃には時間はかかれど決定することが多いのではないでしょうか。

しかし、オーナー企業の多いタイでは、もちろん金額によりますが多くはオーナーの一声でひっくり返る事も十分ありうると見てきて思います。また、担当者からアプローチしても人事異動で他の部署を経験することが無い事もあってか他部署との調整が必要な場合は、話が進まず時間がかかるという事もあります。

そのため、いかにオーナーと交渉できるかが競合との勝負となるケースもあるでしょう。

BtoCの場合、どのような気持ちで購入するのか、決め手は日本人が日本で購入する場合と違う場合も多いと思います。日本語が入っている方が好まれるなんてものもあります。

また、例えばカフェなどで扱う食品機械。インテリアとしても魅せる事から日本製は日本語でメーカー名やブランド名が入っていた方が喜ばれる。そんなケースもあります。

まとめ

商材によっても売れる仕組みや売り方は様々ですが、学会などで顔見知りを作り、少しずつネットワークに入り込み、販売の機会を伺うという人的販売が中心のBtoBや展示会でリードを獲得する営業方法もあれば、日本的な商品を販売するBtoCもありそれぞれ課題は違いますが、海外ならではの様々なギャップを感じる事と思います。

海外展開で悩むことは様々ありますが、結局、売れない現実に直面し、プロモーションが良くないと考えるケースは多いです。どのSNSが良いのか、インフルエンサーがどうこうというテクニックの話が多くなります。

私が現地で思っていたことは、やはり豊かになるにつれ多様化し、選択肢が増えるにつれ、日本のものがそのまま受け入れられる事がなくなってきていると思います。

本当に現地の人が望むもの、機能、デザイン、価格、提供する価値、誰に喜ばれるのか、誰と組めばよいかなどなど、こうした事から検討しないと、売れる仕組み(価格、流通、商品、プロモーション)を作るのは難しい。現地法人ではプロモーションと売ってくれる人を探すこと、買ってくれる人を探すことしかできない事が多い。

しかし、そんな中でも命に関わる部品や製品、安心安全についてはやはり抜群に日本製が信頼されており、好まれる傾向はあります。長年培った日本のブランド力はまだ通用すると思います。これも消費者の気持ちを調査すれば見えてくるものがありますね。

以上のように、海外と日本ではマーケティング戦略を考える際の重要なポイントが異なります。日本製というナショナルブランドを活かしながらも、これらの違いを理解し、適切なマーケティング戦略を立てることが重要です。

日本企業・日本製品がタイ市場でも活躍できることを願っています。まずは現地を知ることから。「日本でうまくいっているから」ではなく、「タイの人が求めているか」という問いから戦略を組み立てることが出発点です。

まとめ:タイでのマーケティングは、日本の成功体験をいったん脇に置き、現地の消費者・文化・流通・価格感覚を丁寧に理解するところから始まります。特に「オーナーへのアプローチ」と「価格競争力」の2点は、BtoBでもBtoCでも共通する最重要課題です。

よくある質問

Q. タイへの海外展開で最初にやるべきことは何ですか?

まず「誰に売るか」のターゲット設定です。日系企業・外資系企業・ローカル企業・BtoC消費者によって、アプローチ方法・流通チャネル・価格感覚がまったく異なります。特に価格についてはROI(投資回収期間)を明示できる提案が必要で、一般的に「1年で回収できる価格・価値」が目安です。

Q. タイでSNSマーケティングは有効ですか?

タイではFacebook・LINE・TikTokの利用率が高く、インフルエンサーマーケティングも活発です。ただし、SNS施策の前に「誰に・何を・なぜ」を明確にする戦略設計が先決です。テクニックより、現地消費者のニーズを理解することが成否を分けます。

Q. 日本製品はタイで価格競争力がありますか?

品質・安全性・ブランド価値において優位性はありますが、価格では中国製品と比べて10倍以上の差が生じる場合もあります。「命に関わる部品」「精密機器」「食の安全」など、日本ブランドへの信頼が直接購買動機になる領域に絞ってターゲットを設定することが現実的です。

Q. タイ現地法人の設立は必要ですか?

最初は現地パートナー(代理店・商社)を経由したアプローチが多く、現地法人設立は一定の売上規模が見えてからが一般的です。まずはどのルートで商品・サービスを届けるかの流通戦略を固めることをお勧めします。