前回は、AIに質問してもらいながら受注の仕事を棚卸ししました(第1回はこちら)。今回は、その表に並んだ「佐藤さんの記憶」を、人に話してAIでまとめ、マニュアルという形で残していきます。
佐藤さんの困りごと ― 「頭の中のことを文章にしようとすると、手が止まるんです」
棚卸しの表ができて、仕事の全体像は見えました。ところが、次の宿題が重くのしかかっています。社長から「この表をもとに、受注業務のマニュアルを作っておいてよ。佐藤さんが休んでも回るように」と言われたのです。
白紙のWordを開いて「1.FAXを受け取る」と打ったところで、指が止まりました。A社は掛け率85%、B社は締め日が20日、C社は古い品番で書いてくるから……。思いつくまま書くと、順番はばらばらで、どれが基本でどれが例外かも分からなくなります。
それに、10年やってきた仕事は当たり前すぎて、何を書けばいいのか分かりません。
やってみた ― 外の人に話して、AIでまとめて、見ながら深掘りする
そこで社長が、外部の専門家に声をかけてくれました。仕事を知らない人に話すことで、頭の中を言葉にしていく進め方です。始める前に、まず3つを決めました。「このマニュアルは誰が、どんな場面で使うのか」「何ができれば完成なのか」「どんな形にするのか」です。ゴールは「私が休んだ日に、代わりの人が受注を回せること」、形は「手順」「判断基準」「例外」「使う資料」の4つに分けたマニュアルにしました。そのうえで、3ステップで進めました。
1つ目は、外部の専門家に仕事を説明すること。オンラインで90分、受注の仕事を話しました。相手はミナト精工の仕事を知りません。だから「FAXが届いたら、まず何をするんですか?」「掛け率って、何に対する割合ですか?」と、前提から聞いてくれます。説明しているうちに、自分でも忘れていた話が次々に出てきました。事前に了承を得て録音し、専門家がパソコンの中だけで文字起こしをして、機微な情報を消したテキストを渡してくれました。
2つ目は、文字起こしをClaudeに渡して、マニュアルのたたき台にすること。渡されたテキストをチャット画面に貼り付けて、こう頼みました。
<文字起こし> (録音の文字起こしをここに貼り付け) </文字起こし> 上の文字起こしは、受注事務の担当者が、外部の専門家に仕事を説明した会話の記録です。 これをもとに、受注業務マニュアルのたたき台を作ってください。 ・「手順」「判断基準」「例外・イレギュラー」「使う資料」の4つに分けてください ・話に出ていないことは書き足さず、分からない部分は「要確認」と書いてください ・取引先名は「A社」「B社」のままにしてください ・最後に、話の中で抜けている点や食い違っている点と、次に聞くとよい質問を5つ出してください
返ってきたたたき台は、A4で4ページほど。話した順ではなく仕事の順番に並び直され、「手順」が9つ、「判断基準」が7つ、「例外」が6つに整理されていました。「要確認」は12か所。最後には「掛け率が変わるタイミングは話に出ていません」といった抜けの指摘と、次の質問が5つ付いていました。
3つ目は、たたき台を専門家と一緒に見ながら深掘りすること。画面を共有して、「要確認」を1つずつ見ていきます。「この特別価格は、誰がいつ決めるんですか?」と聞かれて、「営業の山本さんが口頭で決めて、私は後から教わることが多いです」と答えが出てきました。文章を目の前にすると、「あ、ここは違います」と間違いにも気づけます。そのやりとりをもう一度Claudeに渡して、マニュアルを更新しました。
<マニュアル> (今のマニュアルをここに貼り付け) </マニュアル> <追加の会話> (深掘りの文字起こしをここに貼り付け) </追加の会話> 追加の会話の内容を反映して、マニュアルを更新してください。 ・変更した箇所には【更新】と付けてください ・前の内容と食い違うところがあれば、別にまとめて教えてください
この「見て、直して、更新する」を3回くり返すと、「要確認」は2か所まで減りました。残りは社長や山本さんに確認しないと決まらないことなので、「確認が必要な事項」としてマニュアルに残しました。
なぜ「人に話す」「AIでまとめる」「見ながら深掘り」なのか
この方法では、役割がはっきり分かれています。聞き出すのは人と人の対話、整理して形にして抜けを指摘するのはAI、何を正しいやり方とするかを決めるのは佐藤さんです。AIが自分で業務を調べて判断しているのではなく、人が決めた手順(話す→まとめる→見て直す)の中に、AIが整理役として加わっています。
前回の逆インタビューとは使い分けです。AIに質問してもらう方法は、ひとりで仕事の全体像をつかむのに向いています。人に話す方法は、判断の理由や例外まで話が広がります。私は営業事務の方に仕事の内容をインタビューしたことがあります。社内の人が聞くと、お互いに前提を知っているので説明が省かれ、聞く側も疑問を持たないまま聞いてしまいます。社外の人間が聞くと、前提から色々と質問できます。私自身も、頭の中がモヤモヤしてまとまらないときは、とにかく言葉にして出し、AIに整理させています。問いと答えを言葉にしておくと、考えが整理されるからです。ただし、これは私の実感であり、公式ドキュメントに書かれた方法ではありません。
AIでまとめていく部分には、公式の裏づけがあります。一度で完成させず、下書きを作らせ、基準に照らして見直させ、直させる、という段階を踏む方法です。
公式ドキュメントより①
"have Claude review it against criteria"
(訳:下書きを、基準に照らしてClaudeに見直させる)
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Chain complex prompts)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
これは開発者向けの解説ですが、考え方はマニュアルづくりでも同じです。「たたき台」「4項目に照らして抜けを探す」「直す」を、1回ずつ区切って進めます。
見ながら直す進め方についても、公式にこうあります。
公式ドキュメントより②
"The best results come from tight feedback loops."
(訳:最良の結果は、こまめに直しを入れる往復から生まれます)
出典:Claude Code Docs「Best practices for Claude Code」(Course-correct early and often)
https://code.claude.com/docs/en/best-practices
こちらはプログラム開発向けの製品(Claude Code)の解説ですが、マニュアルでも、見て直す往復を重ねるほうが実態に近づきます。
では、「マニュアルを作って」と普通に頼むのとは何が違うのでしょうか。一言で頼めば立派なひな型は返ってきますが、ミナト精工の判断は入っていません。今回は材料が佐藤さん自身の語りなので、佐藤さんの仕事の記録になります。さらに、たたき台という「目に見えるもの」があると、人は「違う」「足りない」と気づきやすくなります。支援の現場でも、「説明して」と言われると言葉に詰まる担当者の方が、できあがった文章を見ると「それは違います、実は」と次々に話してくださいます。
つまずきやすい点は3つあります。1つ目は、目的とゴール、出来上がりの形を決めずに始めることです。私は、これなしに始めてもうまくいかないと考えています。「誰が、どんな場面で使うマニュアルか」を、話す前に決めてください。2つ目は、AIが話に出ていないことをそれらしく埋めがちなことです。「書き足さない」「要確認と書く」と指定してください。文字起こしの誤変換も混じるので、人の目で確認します。3つ目は、マニュアルは「今のやり方」を写すだけで、古い慣習もそのまま文章になることです。それを正しいやり方にするかは人が決めるので、私は「まず現状をそのまま記録し、直すのはそのあとで」とお伝えしています。
限界もあります。AIは話に出たことしか知らないので、月に1回しかない例外は、話題にしなければ載りません。できあがったら、月末や繁忙期の仕事を思い出しながら読み返してください。
佐藤さんの不安 ― 「社外の人に話して、録音して、会社の情報をAIに入れて大丈夫?」
正直に言うと、外の専門家に話すときは少し緊張しました。社外の人に話していいのか、録音して大丈夫なのか、しかもAIに入れるなんて、と。
佐藤さんのような不安は、私が支援している現場でもよく聞きます。私は、次の3つを決めてから始めます。
まず、話す前に、外部の専門家と秘密保持の取り決め(契約や覚書)を交わし、話してよい範囲を社長と決めます。契約の細部は、弁護士などの専門家にご相談ください(私は法律の専門家ではありません)。
次に、録音は、もちろん許可をいただいてから始めます。私は、パソコンの中だけで完結する文字起こしアプリを自分で作って使っています。録音も文字起こしも外に出さず、機微な情報はテキストにする段階で削除しています。考え方はどなたでも同じで、どこで処理し、どこに保管し、いつ消すかを先に決めておくと安心です。
そして、AIに入れる前に、取引先名・個人名・単価などの機微な情報は削除するか、「A社」のように置き換えます。マニュアルに必要なのは手順と判断の「型」で、固有名詞ではないからです。
AIへの入力が学習に使われるかも確認が必要です。Anthropicの公式ページ(2026年8月18日表示)では、商用製品の入力・出力は既定で学習に使わないとされています(フィードバックを送った場合や、利用者が自ら許可した場合は別)。個人向けプランは、設定で学習への利用を選べ、シークレット(Incognito)チャットは対象外です(2026年3月16日更新の表示)。どのプランで、設定がどうなっているかは、始める前にご確認ください。会社の業務なら、会社向けのプランにするかを社長と相談しましょう。
AIに渡すのは文字起こしのテキストです。公式ヘルプの対応形式にはTXTやDOCXが載っています(2026年10月26日確認)。
今回の部品:受注業務マニュアル
手順・判断基準・例外・使う資料の4つに分けた、佐藤さんの仕事の記録です。棚卸し表で「佐藤さんの記憶」だった判断が、はじめて言葉になりました。全体フロー図の全工程の土台が埋まり、これからの部品と、最後に組み上げるエージェントの「知識の土台」になります。
自社でやるなら
最初から全工程をやる必要はありません。まず「誰が、何のために使うマニュアルか」を一行で書き、1つの工程(たとえば「FAXが届いてから受注入力まで」)に絞りましょう。その工程を知らない同僚や上司に15分ほど説明し(録音は許可を得てください)、文字起こしを上のプロンプトでAIに渡してみましょう。30分で試せます。
次回は、マニュアルの中でも特にミスが怖い「FAX注文書の品番の読み替え」を、読み間違いを防ぎながらAIに手伝ってもらう方法です。
※本記事はAIを活用して作成しています。