収益の流れ(Revenue Streams)の設計は、「価値提案の分解 → 提供物の特定 → 収益化パターンの選択 → 価格設定」の6ステップで進めます。本記事では、中小企業診断士として2,000名以上の経営者・起業家を支援してきた経験をもとに、カフェ・パーソナルトレーナー・手作り石鹸メーカーの3つの事例を使いながら、BMCへの記入方法までを具体的に解説します。

皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

どんなに社会に貢献する素晴らしい事業も、どんなに顧客に愛されるサービスも、活動を継続するための収益がなければ成り立ちません。「収益の流れ」は、まさに事業を動かすための血液です。

しかし、これは単なる「値付け」の話ではありません。ここで考えるのは、自分のビジネスが、提供する価値に対して、顧客からどのようにお金をいただくか、その「仕組み=稼ぎ方」そのものです。

これまでの7回で、自社の「強み」を発見し、「顧客」を深く理解し、心に響く「価値提案(VP)」を創り上げました。そして、競合との「違い」を明確にし、ビジネスモデルキャンバス(BMC)を使って、価値を「どう届け(CH)」「どう繋がるか(CR)」という、顧客との接点となる設計図の右側を描いてきましたね。

素晴らしい航路図が描けました! しかし、船を進めるには燃料が必要です。ビジネスにおける燃料、それは「収益」です。

今回は、BMCの9つのブロックの一つ、「収益の流れ(Revenue Streams: RS)」に焦点を当て、あなたのビジネスの価値を、具体的な「お金の流れ」に変えるための設計方法をみていきましょう。

1
価値提案を
一言で表現
2
価値提案を
分解
3
提供物を
特定
4
収益化
パターン選択
5
BMCに
書き込む
6
価格設定

「収益の流れ(RS)」とは何か — ビジネスの「お金の入り口」を考える

まず、BMCにおける「収益の流れ(RS)」ブロックの役割をしっかり理解しましょう。ここは単なる売上目標を書く場所ではありません。あなたのビジネスが、

RSブロックで考える3つの問い
  • 誰から? — どの顧客セグメントから?(直接の顧客? それとも広告主のような第三者?)
  • 何に対して? — 提供している価値提案(VP)のどの部分に価値を感じて?(商品そのもの? サービス利用権? 問題解決? 時間節約?)
  • どのように? — どんな支払い方法・頻度で?(一回払い? 月額? 年額? 使った分だけ?)

お金を受け取るのか、その具体的な「お金の入り口」と「流れ方」を記述する場所です。

例えば、カフェなら、「来店客から(誰から)」「コーヒーやケーキに対して(何に)」「商品ごとに代金を受け取る(どのように)」というのが基本的な収益の流れになります。

Key Point

「価格」ではなく「お金の流れ方・源泉」を設計する

重要なのは、単なる価格設定ではなく、ビジネスとして「お金の流れ方・源泉」そのものを設計するという視点です。この発想の転換が、収益モデルの多様化と事業の安定化に繋がります。

1
価値提案を「一言」で表現する
Clarify

具体的な収益化の方法を考える前に、少し立ち止まって、あなたのビジネスの「核」を再確認しましょう。そもそも、あなたは「誰の」「どんな用事(ジョブ)」を「何で」解決・支援するのでしょうか?

この価値提案(VP)の核を、以下のフレームワークを使って一言で表現してみることをお勧めします。

価値提案 表現フレームワーク

「[顧客のJobs-to-be-Done]のための
『[価値を象徴する形容詞]』
[あなたの製品またはサービス]」

※Jobs-to-be-Done(JTBD)= 顧客がある状況で達成したい目的、進歩、片付けたいこと/抱えている課題・悩み・不満/満たしたい願望・喜び・得たい成果

なぜこれを行うか? この「核となる価値」に対して、顧客が「それならお金を払いたい!」と思うだけの理由があるか、魅力があるかを、収益化を考える前に見つめ直すためです。

事例 1 ― カフェ「Third Place」

「忙しい日常から解放され、自分らしく過ごせる時間と空間を求める人(JTBD: 課題解決/願望実現)」のための『心安らぐ/集中できる』自分だけの空間(空間・コーヒー・関連サービス)

事例 2 ― パーソナル・トレーナー

「健康的な理想の身体を手に入れ、自信を持って毎日を送りたい人(JTBD: 願望実現/自己進歩)」のための『科学的で、あなたに寄り添う』パーソナルトレーニング(専門指導・支援サービス)

事例 3 ― 手作り石鹸メーカー

「肌への負担を減らし、毎日のバスタイムを特別な癒やしの時間にしたい人(JTBD: 課題解決/願望実現)」のための『天然素材の、五感で楽しむ』手作り石鹸(肌と心を満たす商品・体験)

このフレームワークを使って、あなたの価値提案を一言で表現してみましょう。力強く、魅力的な言葉になっていますか?

2
価値提案を分解してみよう
Decompose

ステップ1で明確にした価値提案の核を、顧客が価値を感じる具体的な「価値要素」に分解します。(これは第2回で行った「強みの元」の発見や、第3回の顧客理解とも繋がっていますね)

事例 1 ― カフェ「Third Place」の価値要素

1. 美味しいコーヒー / 2. 上質な空間 / 3. 心地よい接客・音楽 / 4. おしゃれなグッズ / 5. 良質なコーヒー豆 / 6. カスタマイズできる選択肢

事例 2 ― パーソナル・トレーナーの価値要素

1. 専門知識・指導スキル / 2. 個別メニュー作成 / 3. モチベーション維持サポート / 4. 食事アドバイス / 5. プライベート空間

事例 3 ― 手作り石鹸メーカーの価値要素

1. 高品質な天然原料 / 2. 肌への優しさ / 3. 豊かな香り・デザイン / 4. 手作りのストーリー / 5. ギフト対応

あなたの価値提案は、どんな具体的な要素で構成されていますか? リストアップしてみましょう。

3
価値要素から「お金に変えられる提供物」を見つける
Identify

リストアップした価値要素の中から、具体的な「商品」や「サービス」として顧客に提供し、対価を得られる「提供物」を見つけ出します。

カフェ「Third Place」の提供物

ドリンク、コーヒー豆、マグカップ等のグッズ、スペース利用権、イベント参加権

パーソナル・トレーナーの提供物

パーソナルトレーニング・セッション、食事指導プログラム、オンライン・サポート、セミナー、情報コンテンツ

手作り石鹸メーカーの提供物

各種手作り石鹸、ギフトセット、石鹸作りワークショップ、手作りキット

Tip

接客や雰囲気など、直接課金しにくい要素も、他の提供物の価格を支える重要な「付加価値」となります。

あなたの価値要素から、直接お金に変えられそうな「商品」や「サービス」は何ですか? 新しい提供物のアイデアは生まれましたか?

4
「どう稼ぐか?」収益化パターンを選ぶ
Monetize

さあ、いよいよ具体的な「稼ぎ方」=「収益化パターン」を選びます。ステップ3で見つけた提供物それぞれに、どんなお金のもらい方が最適かを考えます。

主な収益化パターンと3つの事例での適用

収益化パターン 収益方法
1. 資産販売
モノや権利を売り切る
カフェ: ドリンク、豆、グッズ販売
石鹸メーカー: 石鹸、ギフトセット、キット販売
トレーナー: 指導プログラムや情報コンテンツの販売
2. 利用料
使った分・時間だけ
カフェ: スペースの時間貸し、イベント参加費
トレーナー: セッションごとの都度払い、セミナー参加費
石鹸メーカー: ワークショップ参加費
3. サブスクリプション
定額・継続課金
カフェ: 月額会員制(ドリンク割引、席確保)、豆の定期便
トレーナー: 月額/期間契約トレーニング、継続オンラインサポート
石鹸メーカー: 石鹸の定期便、季節ごとの限定セットお届け
4. レンタル/リース カフェのイベント機材、トレーナーの器具、石鹸メーカーの道具など限定的だが可能性は探れる
5. ライセンス カフェのレシピ、トレーナーのメソッド、石鹸メーカーのデザインなど専門性・独自性が高ければ
6. 仲介手数料 カフェの委託販売、トレーナーの専門家紹介、石鹸メーカーの材料共同購入など
7. 広告収入 カフェの地域情報発信、トレーナーのブログ、石鹸メーカーのSNSなど集客力があれば
8. フリーミアム トレーナーの初回無料カウンセリング、石鹸メーカーのサンプル配布など

参考:コンサルティングのケース(中小企業診断士など) — 時間課金(2)、顧問契約(3)、プロジェクト(1に近い役務提供/固定料金)、セミナー講師(2)、成功報酬型(6に近い)など、多様なパターンを組み合わせるのが一般的です。

Key Point

一つのビジネスでも複数のパターンを組み合わせられる!

カフェがドリンク(1)と月額会員(3)とイベント(2)を組み合わせるように、収益源を複数持つことで、ビジネスはより安定します。

あなたの商品・サービスには、どの収益化パターンが最も自然ですか? 顧客は受け入れてくれそうですか? 複数のパターンを組み合わせることはできそうですか?

5
具体的な「収益の流れ」を設計し、BMCに書き込む
Design

ここまでの検討結果を、BMCの「収益の流れ(RS)」ブロックに、具体的で分かりやすい言葉で書き込みます。

書き方のポイント

「誰から」「何に対して」「どのように」を意識して記述しましょう。

BMC記入例 ― カフェ「Third Place」
  • ドリンク・フード売上(来店客から / 商品・サービスに対して / 都度払い - 資産販売)
  • コーヒー豆・グッズ売上(来店客・EC顧客から / 商品に対して / 都度払い - 資産販売)
  • 月額会員費(会員から / 特定サービス・特典利用権に対して / 月額固定 - サブスクリプション)
  • ワークスペース時間貸し利用料(利用者から / スペース利用権に対して / 時間課金 - 利用料)
  • イベント参加費(参加者から / イベント体験に対して / 都度払い - 利用料)
BMC記入例 ― パーソナル・トレーナー
  • パーソナルトレーニング料(月額会員から / 継続指導に対して / 月額固定 - サブスクリプション)
  • パーソナルトレーニング料(都度利用顧客から / セッション利用に対して / 都度払い - 利用料)
  • 食事指導プログラム料(購入者から / プログラム提供に対して / 一括払い - 資産販売)
BMC記入例 ― 手作り石鹸メーカー
  • 各種石鹸・ギフトセット売上(一般顧客から / 商品に対して / 都度払い - 資産販売 - 店頭/EC)
  • 石鹸定期便 会員費(会員顧客から / 商品とサービス利用権に対して / 月額固定 - サブスクリプション)
  • ワークショップ参加費(参加者から / 体験サービスに対して / 都度払い - 利用料)

あなたのBMCのRSブロックに、考えられる具体的な収益の流れを書き出してみましょう。最初はブレスト感覚でOKです!

6
「いくら?」価格設定の考え方
Pricing

「どう稼ぐか」の次は、「いくらで稼ぐか」=価格設定です。これも非常に重要ですね。

価格設定の3つの基本アプローチ

1. コスト基準

かかった費用に利益を乗せる。利益確保の最低ラインを知る基本。

例:石鹸の材料費+制作労務費+諸経費+利益=価格

2. 競合基準

ライバルの価格を参考にする。市場での立ち位置を決める上で重要。

例:周辺カフェのコーヒー価格を調査し、自店の品質や空間価値を考慮して設定

3. 価値基準(理想的!)

顧客が感じる「価値」を基準にする。これができれば理想的です!

例:トレーナーの指導で「〇kg痩せて自信がついた」という価値は顧客にとっていくらか? カフェの「集中できる時間と空間」の価値は? 石鹸の「肌の悩みが改善した」「癒やしの時間」の価値は?

Price Formula

【顧客が感じる価値】 > 【価格】 > 【コスト】

価格は「実験」と「コミュニケーション」。顧客の反応を見ながら価格をテストし、価値が伝わるように説明し、時には調整する勇気も必要です。

AI活用で収益化アイデアのリサーチと壁打ちを加速する

収益の流れや価格設定で迷ったら、AIに相談してみましょう。以下に活用パターンを紹介します。

活用例 1 ― 収益化パターン提案
AIツール
ChatGPT Claude Gemini
プロンプト例 収益化パターン提案
私の手作り石鹸ビジネス([特徴や販売チャネルを記入])で、
現在の直接販売以外に考えられる収益化パターンと、
それぞれの導入メリット・注意点を教えてください。
活用例 2 ― 価格帯リサーチ
AIツール
Perplexity Gemini Deep Research
プロンプト例 価格帯リサーチ
パーソナルトレーニングのセッション料金について、
地域([地域名])やオンラインでの相場、
価格以外に顧客が重視する要素
(トレーナーの資格、実績、専門分野など)を教えてください。
活用例 3 ― 価値の言語化サポート
AIツール
Claude ChatGPT
プロンプト例 価値の言語化
私のカフェが提供する「心地よい空間」という価値を、
価格設定の根拠として顧客に伝えるための
説明文案をいくつか考えてください。

PerplexityやFelo、またはChatGPTやGeminiのDeep Researchを使っても良いと思います。

収益の流れはビジネスモデル全体の「結果」であり「起点」

設計した「収益の流れ(RS)」は、BMCの他の要素と深く結びついています。

例:カフェが月額会員制(RS)を導入する場合
  • 会員限定メニューや特典(VP)が必要
  • 会員管理システム(KR/KA)や特別なコミュニケーション(CR)が必要
  • 会員向けイベント企画(KA)や、それにかかるコスト(CS)も発生
例:トレーナーがオンラインサブスク(RS)を始める場合
  • 動画コンテンツ作成(KA)や配信プラットフォーム(KR/CH)が必要
  • オンラインでの関係構築(CR)の方法を工夫する必要がある

収益の流れは、ビジネスモデル全体の活動の結果として生まれ、同時に、その活動を支え、次なる価値創造の原資となる、まさにビジネスの心臓部です。

まとめと次回(第9回)予告

今回は、あなたのビジネスの価値を具体的な「収益の流れ」に変えるための、実践的なステップを探求しました。

価値提案を分解し、提供物を見つけ、多様な収益化パターンから最適なものを選び、具体的なお金の流れとして設計するイメージが掴めたでしょうか? 事例を通して、ご自身のビジネスに当てはめて考えるヒントが見つかっていれば幸いです。

BMCの右側(顧客サイド)と収益の流れ(RS)が見えてきました。船の目的地と乗客、そして燃料補給の方法が決まったようなものです。

次回予告

【第9回】「価値創造を支える舞台裏:リソース・活動・パートナーの設計」(仮)では、いよいよBMCの左側、船のエンジンルームとも言える部分に目を向けます。その素晴らしい価値提案を、どうやって安定的に、効率的に生み出し続けるのか? そのために必要な「ヒト・モノ・カネ・情報(キーリソース)」、核となる「活動(キーアクティビティ)」、そして協力してくれる「仲間(キーパートナー)」について、詳しく見ていきましょう。

ポイント:収益の流れは「1種類」に絞る必要はありません。フロー型(単発販売)とストック型(継続課金)を組み合わせることで、収益の安定性と成長性を両立できます。
中小企業診断士からひと言:価格設定は「原価積み上げ」だけで決めないこと。顧客が感じる価値(知覚価値)を出発点に価格を考えると、利益率と顧客満足度の両方を高めやすくなります。

よくある質問

Q. 収益モデルはどのタイミングで決めるべきですか?

A. 価値提案が固まった段階で、並行して検討し始めることをおすすめします。早すぎると前提が変わりやすく、遅すぎると価値提案と収益モデルが噛み合わない設計になりがちです。BMCのVP(価値提案)とRS(収益の流れ)は常に対にして考えてください。

Q. サブスクリプションとスポット販売、どちらが中小企業に向いていますか?

A. どちらにも優劣はなく、顧客のジョブ(課題・望み)と提供価値の性質によります。継続的に価値を届けられるサービスならサブスク型、一回完結の価値提供ならスポット型が自然です。両方の要素を持つ「初期費用+月額」のハイブリッド型も検討に値します。

Q. 価格設定で失敗しないコツはありますか?

A. まず「競合の価格帯」を把握し、次に「顧客が感じる価値(知覚価値)」を探ります。安易に競合より安くする「低価格戦略」はコスト競争に陥りやすいため、差別化できている部分を価格に反映させることが重要です。小規模でテスト販売して反応を見ながら調整するアプローチが現実的です。

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