前回、AIエージェントの最初の一歩は、バックオフィスの中の小さな定型作業から刻むべきだという仮説にたどり着きました。では、そこで得た成功体験を会社全体に広げていくとき、何に気をつければよいのか。海外レポートが揃って指摘しているのは、意外にも「技術の話ではない」ということでした。
海外の一次情報を読み解く
PwCが2026年に発表した「2026 AI Business Predictions」は、AI変革がもたらす価値のうち、技術そのものが生み出す割合はわずか20%に過ぎないと指摘しています。残り80%は、AIエージェントが定型業務を担い、人が付加価値の高い仕事に集中できるよう、業務そのものを設計し直すことから生まれるという主張です。同じくPwCが2026年に公表した調査では、AIがもたらす経済的価値の74%を、わずか20%の企業が独占しているという結果も出ています。そして成果を上げている上位企業は、既存の業務にツールを重ねるのではなく、業務そのものを再設計した割合が、そうでない企業の2倍に上るという分析が添えられています。
Deloitteも同じ方向の警告を発しています。「Tech Trends 2026」では、Intel出身のBrent Collins氏の言葉として「牛が踏み固めた道(cow path)をそのまま舗装するな。AIの進化を、業務そのものを作り直す機会として使え」という表現を紹介しています。既存のワークフローにエージェントを一枚重ねるだけでは、非効率をそのまま自動化してしまう、という警告です。Gartnerが「agentic AIプロジェクトの40%以上が2027年までに失敗する」と予測している主な理由の一つも、技術の欠陥ではなく、壊れた業務プロセスをそのまま自動化しようとしていることにあるとされています。ある大手企業のCFOが「単一の課題を解決するのではなく、本当に変革できるエンドツーエンドの業務を選んだ」と語った事例も紹介されており、成果を上げている企業は「どの業務にエージェントを載せるか」ではなく「どの業務を作り直すか」から考え始めていることが見えてきます。この連載の第2回で触れた「AIシステムの運用コストをリアルタイムで可視化できている企業はまだ26%」というKPMGのデータも、同じ根から出ている問題だと今回あらためて感じました。既存の業務の上に技術だけを重ねると、何にどれだけコストがかかっているかも見えないまま、投資だけが膨らんでいくのです。
立ち止まって考える:日本の中小企業にどう関係するか
「業務を作り直す」と聞くと、大企業が専門チームを組んで数か月かけて行う大掛かりなプロジェクトを連想し、中小企業には縁遠い話に思えるかもしれません。実際、PwCやDeloitteが想定しているのは、何十年も積み重なった複雑な基幹システムと業務プロセスを持つ大企業です。彼らにとっての「作り直し」は、確かに大仕事です。
ただ、ここで一つ見方を変えられると私は考えています。中小企業の多くは、そもそも業務プロセスが「システムとして固まっていない」のではないでしょうか。前回・前々回の連載でも触れてきた通り、多くの中小企業の業務は、紙とFAXとExcel、そして特定の社員の頭の中にある暗黙知で回っています。大企業のように「壊すべき既存の巨大なシステム」がない分、"舗装し直す"べき古い道路そのものが存在しないケースが多いのです。
だとすれば、中小企業にとっての「業務を作り直す」の実態は、既存の複雑なプロセスを解体することではなく、これまで一人の頭の中にしかなかったやり方を、初めて言葉と手順に落とし込むことに近いはずです。しかもそれを、後からAIエージェントを継ぎ足す前提ではなく、最初からエージェントと組み合わせる前提で言語化する。つまり中小企業には、大企業にはない利点があります。壊すべき"cow path"がまだ舗装されていない分、最初から作り直せる余地が大きいということです。前回試したバックオフィスの小さな一作業も、まず「今、誰が・どんな手順で・何を基準にやっているか」を言葉にするところから始まっているはずで、それ自体がすでに"作り直し"の第一歩になっています。
この「言語化」という作業自体は、実は目新しいものではありません。この連載の前段にあたる経営課題×AIシリーズでも、「業務マニュアルをAIで30分でつくる」「あの人しか知らない暗黙知をAIで引き出してマニュアル化する」といった打ち手を紹介してきました。今回の海外レポートが示しているのは、その言語化を「後から属人化を解消するため」だけでなく、「最初からAIエージェントに任せる前提で行う」という一歩先の使い方です。同じ言語化という作業でも、目的をどこに置くかで、その先の"作り直し"の深さが変わってきます。
中小企業には、大企業のような壊すべき既存システムという重荷がありません。だからこそ最初からAIエージェントと組み合わせる前提で業務を言語化すれば、技術投資の効果を20%で終わらせず、残り80%まで届かせられます。
もう一つ気をつけたいのは、「作り直す」を「今のやり方を否定する」と誤解しないことです。ベテラン社員が長年かけて磨いてきたやり方には、マニュアルにできていないだけの理由や勘所が詰まっていることが多く、それを無視してゼロから設計し直すと、かえって現場の反発を招きます。作り直すべきは手順そのものというより、「なぜその手順なのか」を初めて言語化し、AIエージェントに任せられる部分と、人が判断すべき部分を仕分ける作業だと考えた方が、現場に受け入れられやすいはずです。
今の自分の仮説・気づき
今の時点での仮説は、「中小企業にとっての業務の作り直しとは、既存の複雑なシステムを壊すことではなく、これまで言葉になっていなかったやり方を初めて言語化し、その時点でエージェントと組み合わせる前提に設計し直すことではないか」ということです。大企業が抱える「レガシーの重さ」を、中小企業は最初から背負っていません。この違いを生かせるかどうかが、技術投資が20%の成果で終わるか、残り80%まで届くかの分かれ目だと考えています。
読者への問いかけ
前回思い浮かべたバックオフィスの一作業について、「なぜ今のやり方になっているのか」「本当にその手順は必要か」を、一度言葉にして書き出してみてください。書き出す過程そのものが、業務を作り直す最初の一歩です。自社の業務を一緒に言語化してみたい場合は、無料相談も承っています。
※本記事は海外の公開レポートを著者が読み解き、日本の中小企業向けに翻訳・考察したものです。
※本記事はAIを活用して作成しています。