ここまで連載を書きながら、ずっと引っかかっている疑問があります。同じようにAIエージェントに投資しているはずなのに、大きく成果を伸ばす会社と、そこそこで終わる会社に分かれるのはなぜなのか。今回は、その分かれ目を正面から扱った最新の調査を読み解いてみます。

海外の一次情報を読み解く

PwCが2026年4月に公表した「2026 AI Performance Study」は、25業種・1,217社の経営層を対象にした調査で、AIから得られる経済的価値のうち74%を、上位20%の企業が独占しているという分布を明らかにしました。しかも同じ技術・同程度の投資額であっても、AIをリードする企業は、そうでない企業に比べて売上・効率面の成果でおよそ7.2倍の差をつけています。営業利益率も4ポイント高いという結果です。

この調査で興味深いのは、差を分けた要因が「AIをどれだけ使ったか」ではなく「AIを何に向けたか」だったという点です。成果を伸ばした企業は、コスト削減ではなく成長機会の獲得にAIを向けており、事業モデルそのものを再構築できたと答える割合が2.6倍、業界の境界が溶け始めている領域で新しい成長機会を見つけて実行する割合が2〜3倍でした。また、既存の業務に道具を一つ足すだけでなく、業務の流れそのものを設計し直した割合が2倍、人の判断を介さない自律的な意思決定の範囲を広げた割合が2.8倍という結果も出ています。ただし、自律性を広げた企業ほどガバナンス体制も同時に強化しており、Responsible AIの枠組みを持つ割合は1.7倍、部門横断のAIガバナンス委員会を持つ割合は1.5倍でした。自律性と統制はセットで進めるべきものだという示唆です。

PwCはさらに、成果が伸びない企業に共通する2つの罠を指摘しています。一つは「パイロット止まりの罠」。部門ごとに実験や小さな成功はあるのに、それが標準業務として全社に広がらない状態です。もう一つは「効率化の罠」。コスト削減という測りやすい目的だけを追い求めた結果、成果が出ても業界平均に埋もれてしまい、競合との差として見えてこない状態です。この2つの罠の根っこには、部門ごとにデータの形式がバラバラで、一度検証したデータや部品を他の部門で使い回せないという共通の弱点があるとPwCは分析しています。

同じ方向性は、IDCの「FutureScape 2026」にも見られます。2026年までにグローバル2000社のCEOの70%が、AIのROI評価軸を「コスト削減」から「成長」へとシフトさせると予測されています。マイクロソフトが委託したIDCの別の調査でも、AI活用が先進的な「フロンティア企業」は投資に対して2.84倍のリターンを得ている一方、出遅れている企業はわずか0.84倍と、投資額に見合う成果を得られていないという結果が出ています。

AIをリードする企業とその他の企業の成果差 ― 7.2倍のギャップ PwC「2026 AI Performance Study」によると、AIをリードする上位20%の企業は、その他の企業に比べてAI由来の売上・効率面の成果が7.2倍に達する。 1倍(基準) その他の企業 7.2倍 AIをリードする企業 (上位20%) 出典:PwC「2026 AI Performance Study」(2026年4月・1,217社調査)
図:AIをリードする上位20%の企業は、その他の企業に比べてAI由来の成果が7.2倍。差を分けたのは投資額ではなく「何に向けたか」。

立ち止まって考える:日本の中小企業にどう関係するか

ここでまず立ち止まりたいのは、PwCの調査対象が1,217社の大企業だという点です。専任のAIチームを置き、部門横断のガバナンス委員会を運営し、検証済みの部品を中央カタログで管理する——これをそのまま中小企業に当てはめるのは無理があります。予算も人員も、大企業とは桁が違います。

ただ、成果を分けた本質的な行動は、規模に関係なく参考にできると私は考えています。それは「AIを何に向けているか」という問いです。コスト削減のためだけにAIを使っている会社と、新しい商品や新しい顧客層を見つけるためにAIを使っている会社とでは、得られる成果の質そのものが変わってくる——これは、この連載の前段にあたる経営課題×AIシリーズ(第6編・経営戦略編)でも触れてきた話と重なります。コスト削減の効果は競合にすぐ追いつかれますが、新しい売り先や新しい商品の発見は、先に動いた者に積み上がっていくという違いがあるからです。

差を分けたのは投資額ではなく、AIをコスト削減に向けるか、成長機会の発見に向けるかという「何に向けたか」。この視点は、中小企業でも今日から自社のAI活用を見直すことで実践できます。

もう一つ、規模に関係なく効く行動が「使い回し」です。PwCの調査では、一度作った検証済みのデータや部品を使い回している企業ほど成果が高いという結果が出ています。中小企業であれば、たとえば一つの業務で作ったプロンプトやチェックリストのひな形を、似た判断が必要な他の業務にも流用する、という小さな実践から始められます。毎回ゼロから作り直すのではなく、うまくいった型を横展開する。この考え方自体は、この連載の第6回で触れた「業務を作り直す」話とも地続きです。「パイロット止まりの罠」も、実は中小企業の方が陥りにくいはずです。部門の壁が大企業ほど厚くないため、ある担当者が試して効果のあったやり方を、社長の一声で全社に広げることができるからです。

なお、フロンティア企業の投資対効果が2.84倍、出遅れた企業が0.84倍という数字も見つけましたが、これはマイクロソフトが委託した別の調査に基づくもので、調査対象の企業規模やAI活用の前提がPwCの調査と異なります。正確な倍率そのものより、「AIを複数の業務に横展開できている会社ほど、投資に見合う成果が出やすい」という方向性の参考として受け止めるのが妥当だと考えています。

今の自分の仮説・気づき

今の時点での仮説は、投資対効果の分かれ目は、AIにどれだけお金をかけたかではなく、①コスト削減だけでなく成長機会にAIを向けているか、②うまくいった型を部門を越えて使い回しているか、の2点に集約できるのではないかということです。どちらも、中小企業が今日から取り組める規模の行動であり、大企業のような専任チームや中央カタログがなくても始められます。大掛かりな体制づくりより先に、この2つの視点で自社のAI活用を見直す方が、遠回りに見えて近道かもしれません。この2つの視点は、事業構想そのものを言語化する作業とも重なります。何のためにAIに投資するのかを最初に言葉にできていれば、コスト削減と成長機会のどちらに寄っているかも自然と見えてくるはずです。

読者への問いかけ

今、社内でAIエージェントを使っている場面を一つ思い浮かべてください。それは「コストを削る」ためですか、それとも「新しい売り先や商品を見つける」ためですか。もし後者の視点が抜けていたら、それが投資対効果を分ける最初の一歩かもしれません。自社にとってAIをどこに向けるべきか、一緒に整理したい方は無料相談で承っています。

※本記事は海外の公開レポートを著者が読み解き、日本の中小企業向けに翻訳・考察したものです。
※本記事はAIを活用して作成しています。