前回は、取引先ごとの締め日や特別条件を、理由つきのルール集にしてClaudeの「プロジェクト」に置く方法を扱いました(第4回)。今回は、ルール集にまだ何も載っていない「初めての取引先」の下調べを、AIに任せて楽にする方法です。同じ質問を3回して答えを比べると、確かめる場所も絞れます。

佐藤さんの困りごと ― 「初めてのお客さんの下調べ、検索するだけで1時間かかる」

木曜の朝、営業の山本さんが声をかけてくれました。「新しい会社から見積の依頼をもらいました。C社です」。初めてのお付き合いですが、最初の注文の金額は、それほど大きくない見込みだそうです。山本さんはそのまま外回りに出てしまい、詳しい話は聞けませんでした。

見積を出す前には、社長に「その会社、どんな会社?」と聞かれます。これまで私がやっていたのは、C社のホームページを開き、会社概要と事業内容を読み、社名で検索してニュースや評判を探し、メモにまとめることでした。大きな金額なら信用調査会社に頼んだり、訪問して確かめたりしますが、今回はその前の「まず自分で調べる」段階です。

これが、意外と時間がかかります。検索すると似た名前の会社がいくつも出てきて、どれがC社なのか見分けるだけで一苦労です。結局この日も、調べてまとめるまでに1時間かかりました。新しい取引先が来るたびにこれをやるのは、正直、面倒です。

やってみた ― 同じ質問を3回して、答えを並べて比べる

AIに聞く前に、まず「何を調べたいか」を決めました。社長と相談して、次の4つの観点にしました。

- 実在:公的な公表情報に、同じ名称・所在地の会社が載っているか - 事業内容:どんな事業をしている会社か。うちの納品物(金属部品)と合っているか - 評判:トラブルやニュースなど、取引の判断に関わる公開情報はないか - 同名の別会社:名前が似た別の会社と混ざっていないか

取引してよいかの判断や、信用調査会社・訪問による見極めは、これまで通り人がやります。AIには、その前の「下調べ」だけを任せることにしました。Claudeのウェブ検索をオンにして、次のように聞きました。

当社(金属部品加工会社)に、初めての取引先から見積の依頼がありました。
公開されている情報だけを使って、次の観点で調べてください。
ウェブ検索を使い、出典のURLを必ず付けてください。

<取引先>
社名:C社(実際は正式な社名を入れる)
所在地:(名刺やホームページに書かれていた住所)
ホームページ:(URL)
</取引先>

観点:
1. 実在:同じ名称・所在地の会社が、公的な公表情報に載っているか
2. 事業内容:どんな事業をしている会社か
3. 評判:トラブルやニュースなど、取引の判断に関わる公開情報があるか
4. 同名の別会社:名前が似た別の会社と混ざっていないか

回答は「検討」と「結論」に分けてください。
・検討:観点ごとに、分かった事実と出典URL、分からなかったことを書く
・結論:取引を始める前に、人が確認すべき点を重要な順に3つまで書く
・事実と推測を分けて書き、推測には「推測」と付ける
・取引してよいかどうかは判断しない

ここまでは、ふつうの聞き方と同じです。今回は、念のため同じ質問を、毎回新しいチャットで3回送りました。同じチャットで続けると、2回目以降が前の答えを踏まえてしまい、比べる意味が薄れるからです。

返ってきた3つの答えを、新しいチャットに貼り付けて、次のように頼みました。

<回答A>(1回目の答えを貼り付け)</回答A>
<回答B>(2回目の答えを貼り付け)</回答B>
<回答C>(3回目の答えを貼り付け)</回答C>

3つの回答を比べて、次の3つに分けてください。
・3つとも一致している点
・食い違っている点(どの回答が、どう違うか)
・1つの回答にしか出てこない点
食い違いと、1つにしかない点は、どれが正しいか決めずに、
人が確認すべき点として、出典URLと一緒に並べてください。

3つの答えは、ほとんど同じ内容でした。文章は少しずつ違っても、所在地も事業内容も、言っていることは同じです。それだけでも、読んでいて安心できました。ただ、1回だけ、C社と同じ名前の会社の古いトラブル記事が出てきました。出典のURLを開いてみると、別の県にある同名の会社の話で、C社とは別でした。1回しか聞いていなかったら、この記事を見て必要以上に心配したか、見落としていたかもしれません。

自分で検索していたときは1時間かかったのが、質問3回と比較までで20分ほどでした。社長には、調べて分かったことと、まだ分からないことを分けて伝えました。取引を始めるかどうかは、社長がこれまで通りに決めます。

同じ質問を3回して答えを比べる仕組み 上段は受注から請求までの8工程で、07と08で埋まった①②と今回埋まった③を示す。下段は、確認の観点表と公開情報だけの質問を、新しいチャットA・B・Cの3つに送り、3つの答えを並べて比べ、一致した点は確からしく、食い違いと1つだけの点は人が確認する、という流れを左から右へ示した図。 09(今回)③ 新規先確認 ― 同じ質問を3回して、答えを比べる ①注文受付 ②条件確認 ③新規先確認 ④見積 ⑤手配 ⑥出荷日 ⑦納品書 ⑧請求 薄いコーラル=前回までに埋まった部分/濃いコーラル=今回埋まった部分 確認の観点表 ①実在 ②事業内容 ③評判 ④同名の別会社 公開情報だけで質問 新しいチャットA 新しいチャットB 新しいチャットC 3つの答えを 並べて比べる 検討と結論を分けて 出典URLつき 比べた結果 一致=確からしい 食い違い=要確認 1つだけ=要確認 同じチャットで続けず、毎回新しいチャットで聞くと、比べやすくなります 取引の判断は人/AIは検索の手間を減らし、割れたところを見せる 信用調査会社や訪問での見極めなど、これまでのやり方は変えません
確認の観点表をもとに、新しいチャットで同じ質問を3回して答えを並べて比べます。一致した点は確からしく、食い違いや1つだけの点は人が確認します。

なぜ同じ質問を3回して比べるのか

佐藤さんが使ったのは、Claudeのチャット画面のウェブ検索と、同じ質問を複数回して答えを比べる方法です。プロジェクトやCowork、Claude Codeは使っていません。いちばんの価値は、自分で検索して情報を探す手間を、AIが代わりにやってくれることです。3回比べるのは、その答えを安心して使うための、ひと手間です。

同じ質問をしても、AIの答えは毎回少しずつ変わります。私の実感では、全く同じ文章ではなくても、言っていることはほぼ同じになることが多く、答えが大きく割れることは、あまりありません。だから、3回聞いて一致すれば安心材料になり、割れたときは「ここは自分の目で確かめよう」という印になります。

この考え方は、AIの研究では「自己一貫性(セルフコンシステンシー)」と呼ばれています。2022年に発表された論文では、複数の考え方で解かせて、いちばん多くの回答が一致した答えを選ぶ方法が提案されました。ただし、受注の現場でこの方法を使う目的は、多数決で答えを決めることではありません。割れたところを見つけて、人が確認する場所を絞ることです。

なお、Anthropicの公式ドキュメントで、この手法が「自己一貫性」という名前で紹介されているのは、2026年10月28日に確認した範囲では見つかりませんでした。そのため、公式の手法とは言わず、一般的な技法として紹介しています。公式に近い記述としては、複数の情報源で確かめさせる、という考え方があります。

公式ドキュメントより①
"Ask Claude to verify information across multiple sources."
(訳:Claudeに、複数の情報源にまたがって情報を確かめさせましょう)
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Research and information gathering)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
※開発者向けの文書ですが、取引先のことを調べさせる場面でも考え方は同じです。

ふつうに1回だけ聞いても、出典のURLを全部開いて確かめれば、同じ確認はできます。3回聞く価値は、確認する場所に優先順位がつくことです。1回の答えは、なめらかで自信ありげに見えるので、どこが怪しいのか分かりません。3回並べると、割れたところが目に見えます。ただ、毎回3回聞く必要はありません。ふだんは1回で下調べをして、金額が大きいときや、気になる点があるときに3回にする、くらいで十分です。「3つの案を出して」と同じチャットで頼む方法もありますが、前の答えを踏まえて書くため、独立した3回分の比較にはなりにくくなります。

AIが何をして、人が何を決めているかも、はっきりさせておきます。AIは、公開情報を調べて、事実と推測を分けて並べる役です。取引してよいか、どんな条件にするかは、人が決めます。検討と結論を分けて書かせているのは、後から「なぜそう考えたか」を説明できるようにするためです。なお、のちの回で扱う並列化は、調べる先を人が決めて同時に確認する方法です。今回は、同じ問いを繰り返して、答えのぶれを見る方法で、狙いが違います。

使うときは、いくつか限界も知っておいてください。3回とも同じ古い記事を拾えば、3回とも同じ間違いが出ます。一致しているからといって、正しいとは限りません。ウェブ検索で見つかる範囲の情報しか分からないので、非公開の情報は出てきません。また、ウェブ検索は利用量にも数えられるため、3回繰り返せば、その分を使います。

機能の条件も書いておきます(2026年10月時点の公式ヘルプによります)。Team・Enterpriseのプランでは、オーナーが組織の設定でウェブ検索を有効にしてから、メンバーがチャットごとにオンにします。新しいClaudeの画面では、オンオフの切り替えがなく、必要に応じてClaudeが検索します。画面や仕様は更新されていくので、使う前に公式ヘルプをご確認ください。

公式ドキュメントより②
"Use authoritative sources for critical decisions."
(訳:重要な判断には、信頼できる情報源を使いましょう)
出典:Claudeヘルプ「Enable and use web search」
https://support.claude.com/en/articles/10684626-enable-and-use-web-search
※取引してよいかの判断は、まさに「重要な判断」です。AIの下調べだけで決めない、という意味で受け取っています。

佐藤さんの不安 ― 「AIが調べた内容を、そのまま信じていいの?」

検索の手間が減るのはありがたい。でも、AIが調べた内容が古かったり、同じ名前の別の会社のことだったりしないか、そこは少し気になりました。

佐藤さんのような疑問は、もっともです。私が支援している現場でも、新しい取引先の確認は、基本的にはホームページを見て判断している会社が多く、金額が大きいときは信用調査会社を使い、訪問して見極めている会社がほとんどです。この進め方は、変える必要はありません。AIが手伝うのは、その前の「自分で検索して情報を探す」手間の部分です。

使うときは、出典のURLを自分で開いて確かめてください。実在の確認には、国税庁の法人番号公表サイトも使えます。法人番号を指定された法人の名称・所在地・法人番号が公表されています。

AIに入れる情報にも、線引きが必要です。前回の線引きと同じで、社名・所在地・ホームページのURLなど、公開されている情報だけにします。先方からもらった資料、見積の条件、担当者の個人名は入れません。

今回の部品:新規取引先チェックの観点表
「実在・事業内容・評判・同名の別会社」の4つの観点と、「同じ質問を新しいチャットで3回して比べる」手順です。全体フロー図の③「新規先確認」が埋まりました。この部品は、最後に組み上げる受注エージェントの「最初の下調べ」の役になります。

自社でやるなら

30分で試せる一歩があります。いきなり初めての取引先で試さず、すでに取引している会社を1社選んでください。上の4つの観点を、自社の言葉で書き直します。そのうえで、公開情報だけを使って、新しいチャットで3回聞き、答えを並べて比べます。自分が知っている実際の姿と合っているか、答え合わせをします。

答え合わせでAIの調べ方のくせが分かったら、初めての取引先にも使ってみましょう。観点表は、使いながら1つずつ足していけば十分です。

次回は、見積書の計算ミスや古い単価のまま出してしまう不安を、AIに見積を自己チェックさせて減らす方法です。

※本記事はAIを活用して作成しています。登場する「ミナト精工」「佐藤さん」「C社」は架空の設定です。