前回は、初めての取引先の下調べを、同じ質問を3回して比べる方法で楽にしました(第5回)。今回は、見積書を出す前の「間違っていないかな」という不安を、AIにチェックさせて減らす方法です。ポイントは、チェックさせる前に「何を見るか」の基準を先につくることです。

佐藤さんの困りごと ― 「古い単価のまま見積を出していないか、毎回ヒヤヒヤする」

材料費が上がって、先月、主な品目の単価を改定しました。単価表は新しくなりましたが、見積書のExcelは、昔の見積をコピーして作ることが多いのです。コピー元が旧単価のまま、というのが怖いところです。

実は以前、旧単価のまま出しかけたことがあります。出す直前に気づいて直しましたが、背中が冷たくなりました。それ以来、見積を出す前には、単価表と見比べ、電卓で合計を確かめ、有効期限も見る、という確認をしています。いちばん神経を使うのは、取引先ごとの条件です。B社は数量がまとまると単価を下げる、C社は掛け率が違う、といった約束は、過去の見積や自分の記憶を頼りに思い出すしかありません。社長や山本さんに見てもらうこともありますが、相手も忙しく、毎回は頼めません。

そこで、確認の最後の一押しをAIに手伝ってもらえないか試すことにしました。

やってみた ― 先に「チェックの基準」をつくらせて、直してから使う

いきなり「この見積を見て」と頼む前に、ひと手間かけました。まず、AIに「見積書をチェックするときの基準」をつくってもらったのです。材料は、先月の単価改定のお知らせと、前に作った取引先ルール集(第4回)です。

当社(金属部品加工会社)で、見積書を出す前のチェックをします。
最初に、チェックの基準(確認項目表)をつくってください。
まだ見積書は見ないでください。

<資料>
(単価改定のお知らせ、取引先ルール集の該当部分を貼り付け)
</資料>

条件:
・確認項目は10個以内。最初に「取引先ごとの条件(掛け率・特別単価など)」、そのあとに「単価」「数量×単価の計算」「有効期限」など
・各項目に、「合格の目安」と「間違えやすい例」を1行ずつ書く
・資料に書かれていないことは、項目に入れず、最後に「資料にないので人が決めるところ」として分けて書く

返ってきたのは、8項目ほどの表でした。旧単価のままになっていないか、数量×単価と合計が合っているか、取引先ごとの掛け率を使っているか、有効期限の日付が正しいか。「取引先ごとの条件」が先頭に来ていて、私が見ても「そうそう」と思う項目が並んでいました。ただ、自社では必ず見ている「納品書に書く品名の表記が取引先の指定どおりか」が抜けていたので、自分で1行足しました。逆に、資料にない「特急料金」の扱いは、「人が決めるところ」に分けて書いてあり、そこは社長に確認して追記しました。

基準が固まったら、いつもどおり自分で見積をつくり、自分の目で確認します。AIに頼むのは、そのあとの「最後」です。先に頼むと、自分の確認が甘くなりそうだからです。見積書の中身(取引先名は伏せ、品目・数量・単価・合計だけ)と一緒に、新しいチャットで頼みます。このとき、Claudeの設定で「Thinking(思考)」をオンにしました。

次の確認項目表に照らして、見積の内容をチェックしてください。
単価は、資料の単価表と見比べてください。

<確認項目表>(直した表を貼り付け)</確認項目表>
<単価表>(改定後の単価表を貼り付け)</単価表>
<見積の内容>(品目・数量・単価・合計を貼り付け)</見積の内容>

回答は、項目ごとに「合格」「要確認」「判断できない」のどれかと、その理由を書いてください。
理由には、見積のどの行の話かを書いてください。
最後に、人が確認すべき点を重要な順に3つまでまとめてください。
表にない観点で気づいたことがあれば、別枠で書いてください。

5品目の見積で、「合格」が6項目、「要確認」が1項目でした。要確認は、B社に約束している数量割引の単価が反映されておらず、通常の単価のままになっている行がある、という指摘です。自分では見たつもりでしたが、ルール集の条件を見落としていました。理由に「3行目」と書いてあったので、探す手間もありません。

最後の判断は、これまでどおり私がやります。見積を直し、金額を最終確認して、山本さんに渡しました。

チェックの基準を先につくってから見積を確認する流れ 上段は受注から請求までの8工程で、①〜③が前回までに埋まり、④見積が今回埋まったことを示す。下段は、資料から基準をAIにつくらせ、人が直し、人がいつも通り見積を確認したあと、最後に基準と見積をAIに渡して基準ごとに合格・要確認・判断できないを返してもらう流れを左から右へ示した図。 10(今回)④ 見積 ― 先に基準をつくり、人が確認したあとの最後にAIがチェック ①注文受付 ②条件確認 ③新規先確認 ④見積 ⑤手配 ⑥出荷日 ⑦納品書 ⑧請求 薄いコーラル=前回までに埋まった部分/濃いコーラル=今回埋まった部分 ① 基準をつくらせる 取引先ルール集+ 単価改定の資料から 10項目以内の表 ② 人が直す 足りない項目を足す 合格の目安(完了条件) を決める ③ 人がいつも通り確認 先に自分の目で見る 見積を直しておく AIは最後 ④ 最後にAIがチェック 基準+単価表+見積 思考(Thinking)をオン 合格/要確認/判断できない AIは人の確認のあとに使います。最終確認と、出すのは人です 何を見るかは人/AIは基準に照らして照合し、理由を示す 「合格」は、渡した情報の範囲で問題が見つからなかった、という意味です
先に基準をつくり、人が直し、人がいつも通り確認したあとの最後にAIがチェックします。最終確認と見積を出すのは人です。

なぜ基準を先につくるのか

佐藤さんが使ったのは、Claudeのチャット画面で、チェックの基準(ルーブリック)を先につくらせてから、その基準で見積を確認させる方法です。「ルーブリック」とは、評価の観点と合格の目安を表にしたもので、要するに「チェック項目表」のことです。プロジェクトを使えば、第4回のルール集と一緒に置いておくこともできます。

公式ドキュメントより①
"Before you finish, verify your answer against [test criteria]."
(訳:終える前に、[テストの基準]に照らして答えを確かめてください)
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Thinking and reasoning)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
※開発者向けの文書ですが、見積を確認させる場面でも考え方は同じです。「基準に照らして確かめさせる」という書き方がポイントです。
公式ドキュメントより②
"Have detailed, clear rubrics"
(訳:詳しくて明確な、評価の基準表を用意しましょう)
出典:Claude Platform Docs「Define success criteria and build evaluations」(Tips for LLM-based grading)
https://platform.claude.com/docs/en/test-and-evaluate/define-success
※AIの出力を評価する開発者向けの文書です。見積のチェックにそのまま当てはまる話ではなく、「基準を明確にしてから評価する」という考え方を借りています。

「見積書を見て、ミスがないか確認して」と1回聞くだけでも、AIは何か指摘してくれます。では、基準を先につくる意味は何でしょうか。私は、次の3つだと考えています。

1つめは、人が基準を直せることです。AIがつくった基準を見て、「納品書の品名が抜けている」「特急料金は決めていない」と、足りないところに気づけます。2つめは、毎回同じ物差しで見られることです。聞き方がその日の気分でぶれると、チェックの中身もぶれます。3つめは、表にないことは見ない、と分かることです。基準に載っていないことは確認されていない、と知っておくだけで、人が目を向ける場所が決まります。

支援の現場でも、担当者の方が「何を見ればいいか」を言葉にするのに苦労されます。AIに先に案を出させて、それを直してもらうと、頭の中にあった基準が出てくることが多いです。見積で間違いやすいのは、顧客ごとの条件だと感じています。だから、第4回で作った取引先ルール集と組み合わせて、基準の先頭に取引先の条件を置くことをおすすめしています。

また、基準には「合格の目安」、つまり何ができていれば完了とするかを書いておきます。「だいたい大丈夫そう」という感覚的なOKではなく、完了条件やチェックリストに照らして確かめさせる。これが、AIの「合格」を使うときの前提です。

使う順番も大切です。見積のダブルチェックをしている会社は多いですが、AIは、人が確認を終えた最後に使うほうがよいと考えています。最初にAIに見てもらうと、人が確認を楽にしてしまいがちだからです。人が先に見て、最後にAIが見落としを拾う。この順番なら、人の確認の力を落とさずに、もう一段の安心が加わります。

ここで、誰が何を決めているかを整理しておきます。何を見るか(基準の中身)は人が決めます。AIは、その基準に照らして見積を照合し、理由を示す役です。第3回の2段階方式のように、人が手順を1つずつ決めて指示する方法とは違い、今回は基準が決まったあとの照合をAIがじっくり考えて行います。

ワンポイントとして、Claudeの「思考(Thinking)」の設定があります。単価、掛け率、有効期限、取引条件を突き合わせて矛盾を探すような、複雑な確認では、オンにすると役立ちます。

公式ドキュメントより③
"For complex tasks, raise the effort level, turn on thinking, or both."
(訳:複雑な作業では、効き目の度合い(effort)を上げるか、思考をオンにするか、その両方をしましょう)
出典:Claudeヘルプ「Change the model, effort, and thinking settings」(Choose the right settings for your task)
https://support.claude.com/en/articles/8664678-change-the-model-effort-and-thinking-settings
※チャット画面では、送信ボタンの横のモデル名から「Effort」を開き、「Thinking」(モデルによっては「Extended」)のスイッチで切り替えます(2026年10月時点)。

ただし、モデルによっては、思考をオフにできないものもあります。その場合は、最初から考えてくれています。また、公式の案内には、設定を上げると回答に時間がかかり、利用上限に早く達する、とあります。毎回オンにする必要はなく、複雑な見積のときに使うくらいで十分です。プランごとの利用可否は、公式ヘルプに記載が見つからなかったので、お使いのプランの画面でご確認ください。

また、新しいモデルでは、「終える前に確かめて」と言わなくても、自分の作業をよく確かめてくれるものがあります。公式ドキュメントには、旧モデル向けの確認の指示をそのまま使うと、確認しすぎて時間がかかることもある、という注意があります。基準に照らして確認させるやり方は、引き続き有効ですが、画面や仕様は変わっていくので、使う前に公式の案内も見てみてください。

限界も正直に書いておきます。AIは、現在の単価を知りません。単価表を渡さなければ、旧単価かどうかは分かりません。掛け算や合計は、Excelの検算機能でも確かめるほうが確実です。そして、基準に書かれていないことは見落とします。AIの「合格」は、「基準に照らして、渡された情報の範囲では問題が見つからなかった」という意味にすぎません。

佐藤さんの不安 ― 「見積の中身や取引先の情報を、AIに見せて大丈夫?」

見積には、取引先の名前や単価、掛け率などが入っています。担当者の名前が載ることもあります。そうした情報をAIに入れていいのか、そこが気になりました。

この不安は、支援している現場でもよく聞きます。多くは、取引情報と個人情報の2つです。私は、この2つを分けて考えるようお伝えしています。取引情報(取引先名、単価、掛け率、特別条件)と、個人情報(担当者の氏名や連絡先)では、守り方が違うからです。

そのうえで、会社ごとに「AIに入れてよい情報」の基準を、具体的に決めてください。たとえば、取引先名は記号に置き換える、担当者の個人名は入れない、といった決め方です。この記事の手順でも、取引先名は伏せて、品目・数量・単価・合計だけを渡しています。使うプランによってデータの扱いは違うため、お使いのプランの公式案内も確認してください。

なお、AIが「合格」と言っても、見積を出す責任は会社と人にあります。AIは見落としを減らす補助で、確認の代わりではありません。

今回の部品:見積チェックの評価基準(確認項目表)
「単価・計算・掛け率・有効期限」などを見る確認項目表と、「基準をつくる→人が直す→人がいつも通り確認する→最後にAIがチェックする→人が最終確認」の手順です。全体フロー図の④「見積」が埋まりました。この部品は、最後に組み上げる受注エージェントの「見積を出す前の確認」の役になります。

自社でやるなら

30分で試せる一歩があります。すでに出した見積を1枚選んでください。AIにチェックの基準を10項目以内でつくらせ、足りない項目を自分で足します。その基準で、出した見積をチェックさせてみましょう。自分が知っている間違いやすい点、とくに取引先ごとの条件を、AIが指摘できるかを答え合わせします。

答え合わせでAIの得意・不得意が分かったら、次の見積から使ってみてください。使うのは、自分の確認を終えたあとの最後です。基準は、使いながら1行ずつ足していけば十分です。

次回は、在庫品・直送品・製造品が混ざった注文を、AIに明細ごとに振り分けさせる方法です。

AI活用の進め方でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

※本記事はAIを活用して作成しています。登場する「ミナト精工」「佐藤さん」「B社」「C社」と見積の内容は架空の設定です。