前回は、1枚の注文書に混ざった在庫品・直送品・製造品を、AIに明細ごとに振り分けさせました(第7回)。今回は、その先の「全部そろえて同じ日に届けて」という注文の出荷日を、AIにじっくり考えさせて組む方法です。ポイントは、手順を細かく書くのではなく、目的と制約を渡して考えさせることです。
佐藤さんの困りごと ― 「出荷日を決めるたびに、あちこちに確認して、それでも営業の約束は後から知るんです」
月曜の朝、注文書が届きました。明細は8行。倉庫にある品が3行、仕入先から直送の品が2行、うちの工場でつくる品が3行です。備考欄には「全部そろえて、金曜に届けてください」とあります。
金曜に間に合うかどうかを調べるには、まず倉庫に行って、在庫品の現物を目で確かめます。仕入先には、納期をFAXで問い合わせます。製造部には完成予定日を、倉庫には検品と梱包にかかる時間を聞きます。いちばん時間がかかるのは、商品ごとの取り扱いの確認です。「この品は防錆紙で包む」「この取引先は、ロットを分けて箱詰めする」といった決まりを、過去のやり取りをさかのぼって探します。そして、いちばん遅い品に全体を合わせて、運送会社の都合や休みの日も考えながら、出荷日を決めます。1つ答えが変わると、ほかの日付もずれていきます。
もう1つ、頭を悩ませるのが、営業の山本さんの約束です。「この取引先は、分納でも大丈夫ですよ」「急ぎのときは、少し無理を聞きますよ」といった話を、電話や訪問先でしてきています。私がそれを知るのは、たいてい注文書が届いてから、あるいはお客さんに「この前、山本さんは分納でいいと言っていたけど」と言われてからです。山本さんは外回りが多く、すぐには連絡がつきません。
支援現場からの実例
出荷日を決めるときの確認は、私が関わる支援先でも、自社倉庫の在庫を目で見て確かめる、仕入先の担当者にFAXで問い合わせる、過去のやり取りをさかのぼって確認する、という作業が中心です。なかでも、いちばん時間がかかるのは、商品ごとの取り扱いを確認する作業だと聞いています。(匿名・ぼかしています)
やってみた ― 材料を渡して、「じっくり考えて」とお願いする
「出荷日を教えて」と聞くだけでは、材料が足りません。そこで、確認して分かったことを、メモにまとめて貼り付けました。製造部の完成予定、仕入先の回答、倉庫の梱包の目安、過去のやり取りから拾った商品ごとの取り扱い、そして山本さんが残していた「お客さんとの約束メモ」です。倉庫の在庫は現物を見て、仕入先の回答はFAXで確かめたものを使いました。Claudeの設定で「Thinking(思考)」をオンにして、次のように頼みました。
当社(金属部品加工会社)の注文について、お客さんの希望どおり「全部そろえて金曜に届ける」ことができるか、じっくり考えてください。 実行や連絡はせず、考えた結果だけを返してください。 <注文の内容>(8行の明細と、備考欄の希望を貼り付け)</注文の内容> <製造部の完成予定>(製造品3行の完成予定日を貼り付け)</製造部の完成予定> <仕入先の回答>(直送品2行の出荷日・お客さんへの到着日を貼り付け)</仕入先の回答> <倉庫の目安>(検品・梱包にかかる時間、出荷の締め切り時刻を貼り付け)</倉庫の目安> <運送会社の条件>(締め切り、到着までの日数、休みの日を貼り付け)</運送会社の条件> <商品ごとの取り扱い>(過去のやり取りから拾った、包装や箱詰めの決まりを貼り付け)</商品ごとの取り扱い> <営業の約束メモ>(この取引先についての山本さんのメモを貼り付け)</営業の約束メモ> お願いしたいこと: ・希望どおりにできるかどうかと、その理由 ・できない場合は、現実的な案を2〜3つ。それぞれの良い点と気をつける点 ・営業の約束メモと関係する案には、どの約束に基づくかを書く ・商品ごとの取り扱いのうち、梱包や出荷の時間に影響するものがあれば、案に反映して理由を書く ・資料に書かれていないことで、人に確認が必要な点を、案とは分けて書く ・前提にした日付や時間は、表にして示す
返ってきたのは、こんな内容でした。まず、いちばん遅いのは製造品で、完成が木曜の午後。検品と梱包を考えると、木曜の運送会社の締め切りには間に合わず、金曜着は難しい、という結論です。商品ごとの取り扱いも反映されていて、防錆紙で包む品があるので梱包に半日足して見積もっている、と理由に書いてありました。そのうえで、3つの案が並んでいました。全部を月曜着にする案、在庫品と直送品を金曜に届けて製造品だけを後から届ける(分納)案、製造部に前倒しを相談する案です。分納の案には、「山本さんのメモに『分納は大丈夫』とある」と根拠が書いてありました。ただし、メモには送料をどちらが持つかが書かれていません。確認が必要な点として「分納の送料の扱いは、メモに記載がないので山本さんに確認」と別枠に出ていました。
前提にした日付の表を見ると、仕入先Aの到着日の読み違いが1か所ありました。表があったので、すぐに気づいて直せました。結局、山本さんに電話して送料の扱いを確かめ、お客さんには分納を提案することにしました。これまで調べて考えるのに半日近くかかっていた作業が、15分ほどで済みました。
なぜ、手順を書かずに考えさせるのか
佐藤さんが使ったのは、Claudeのチャット画面で「思考(Thinking)」をオンにして、制約が絡み合う問題をじっくり考えさせる使い方です。設定は、メッセージ欄の横にあるモデル名を押して、「Effort」の項目にマウスを合わせ、「Thinking」(モデルによっては「Extended」)のスイッチを切り替えます(2026年10月時点)。
公式ドキュメントより①
"Prefer general instructions over prescriptive steps."
(訳:手順を細かく決めて指示するより、大まかな指示のほうがよい)
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Thinking and reasoning)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
※開発者向けの文書です。「じっくり考えて」のような一般的な指示のほうが、手書きの手順より良い推論になりやすい、という説明の一部です。出荷日の組み立てでも、考え方は同じです。
公式ドキュメントより②
"exploring different approaches before responding"
(訳:答える前に、いくつかのやり方を検討する)
出典:Claudeヘルプ「Change the model, effort, and thinking settings」
https://support.claude.com/en/articles/8664678-change-the-model-effort-and-thinking-settings
※思考をオンにすると、Claudeが問題を分けて考え、計画を立て、別のやり方も検討してから答える、という説明の一部です。
「出荷日を教えて」と普通に聞いても、AIは何か答えてくれます。では、思考をオンにして考えさせる意味は何でしょうか。私は、日付の問題が「1つ直すとほかがずれる」性質だからだと考えています。各品の最短日を出す、いちばん遅い品に合わせる、運送の締め切りと休みの日をあてはめる、さらに口約束と矛盾しないかを見る。こうしたつながりを一度に組み立てる場面では、答えを急がず、いくつかの案を比べてから返してもらうほうが、抜けが減ると感じています。そして、「前提にした日付を表にして」と頼むことで、人が検算できる形で返ってきます。
ここで、誰が何をしているかを整理しておきます。材料を集めて渡すのは人です。考えを分解し、案を出し、約束との食い違いを洗い出すのはAIです。出荷日を決めて、お客さんに伝えるのは人です。第3回の2段階方式のように、人が手順を1つずつ書いて指示する方法とは違い、今回は目的と制約を渡して、進め方をAIに任せています。第7回のルーティングは、各行の区分をAIが判断する使い方でした。今回は、1つの問題をじっくり考える使い方です。
ワンポイントとして、観点を分けて答えさせる方法があります。製造予定、仕入先の回答、営業の約束のように、見るべきものが複数あるときは、「観点ごとに分けて、それぞれ確認してください」と頼みます。公式の記事では、複雑な作業は考慮する点ごとに別々に処理するほうが、一般に性能が良いと説明されています(Anthropic Engineering「Building effective AI agents」の並列化の項)。ただし、これは開発者がプログラムで並行して動かす仕組みです。チャット画面では、考え方だけを借りて、1つのお願いの中で観点を分けます。このとき、どの資料を見るかは人が決めています。AIが勝手に社内を調べに行くわけではありません。
限界も、正直に書いておきます。AIは、製造部の本当の完成日も、仕入先の納期も知りません。渡した情報の範囲で考えるだけです。日付や曜日の計算は間違えることがあるので、カレンダーで検算してください。運送会社の実際の配達日も、必ず確認が必要です。思考をオンにすると、AIは時間をかけて考えるので、回答が遅くなります。公式ヘルプには、Effort(考える深さ)を上げるほど回答に時間がかかり、利用上限に早く達する、と書かれています。簡単な日付の確認なら、オンにする必要はありません。プランごとの使えるかどうかは、公式の記載が見つからなかったので、お使いの画面でご確認ください。
そして、営業の約束の中身は、AIには分かりません。メモに書いてあることしか読めないからです。
過去のやり取りをさかのぼって商品ごとの取り扱いを確かめる作業は、支援先でも時間がかかる作業です。倉庫の現物の確認や、仕入先へのFAXの問い合わせは、人がするほかありません。AIにお願いするのは、そうして確かめたことの整理と、組み合わせの検討です。確認そのものを任せるわけではありません。
この場面で、私が必ずお伝えしていることが2つあります。1つめは、出荷日の最終決定と、お客さんへの回答は、人がすることです。2つめは、営業の約束をAIが拾えるように、先に記録の仕方を決めておくことです。たとえば、営業が約束したら一言メモを残す、というルールです。「いつ・どの取引先に・何を約束したか」の一行で十分です。
佐藤さんの不安 ― 「営業のメールまでAIに読ませて、大丈夫?」
山本さんの約束は、メールにも書かれていると思います。それをAIにつないで、全部読ませれば早いのでは、と考えました。でも、営業のメールを読ませてよいのか、山本さんがどう思うのか、不安もありました。
この不安は、自然なものです。Claudeには、Gmailをつなぐコネクタがあり、メールの検索や読み取り、下書きの作成ができます。メールを送る操作は、既定では実行前に確認が出ると、公式ヘルプに書かれています。
公式ドキュメントより③
"By default, Claude asks for your approval before each of these actions."
(訳:既定では、これらの操作の前に、Claudeはあなたの承認を求めます)
出典:Claudeヘルプ「Use Google Workspace connectors」(Gmailの送信・返信・転送について)
https://support.claude.com/en/articles/10166901-use-google-workspace-connectors
※TeamとEnterpriseのプランでは、承認なしで実行してよいかどうかを、管理者(オーナー)が決められるとも書かれています(2026年10月時点)。
ただ、公式ヘルプを確認したところ、「このラベルのメールだけ読ませる」のように、読む範囲を絞る機能の説明は見つかりませんでした。添付ファイルの中身も読めません(メタデータのみ)。ですから私は、最初は連携せず、貼り付けから始めることをおすすめしています。つなぐとしても、メールを丸ごとではなく、山本さんが残した「約束メモ」を1枚にまとめて貼る形が安全です。
もう1つ、大切なのは社内の合意です。営業の人にとっては、自分のメールを見られる話になります。「何のために、どこまで使うか」を先に山本さんと話して、納得してもらってください。個人情報や取引先の情報の入力基準は、会社ごとに決めておきましょう。AIにメールの送信や出荷の指示までさせることは、私はしていません。AIにお願いするのは、考えて案を出すところまでです。決めて、実行するのは人です。
今回の部品:出荷日の組み立て手順+営業の約束メモのルール
「目的と制約を渡して、案と確認点を返してもらう」指示文と、営業が約束したら一言メモを残す記録のルールです。全体フロー図の⑥「出荷日」が埋まりました。この部品は、最後に組み上げる受注エージェントの「出荷日を調整する」役になります。
自社でやるなら
30分で試せる一歩があります。最近の注文で、納期の調整に手間がかかったものを1件選んでください。製造部の予定、仕入先の回答、運送会社の条件を、メモに書き出します。分かる範囲で構いません。
それをAIに渡して、思考をオンにして「全部そろえて希望の日に届けられるか、じっくり考えて。案は2〜3つ、確認が必要な点は別に書いて」と頼みます。返ってきた前提の表を、カレンダーと見比べてください。あわせて、営業の方と「約束したら一言メモを残す」ルールを、1行だけ決めてみましょう。出荷日の決定と、お客さんへの連絡は、これまでどおり自分でやってください。
次回は、毎月の締めの請求漏れチェックを、AIに定期的に任せる方法です。
出荷日の調整の流れや、営業の約束の残し方の設計をご相談したい方は、無料相談でお受けしています。
※本記事はAIを活用して作成しています。登場する「ミナト精工」「佐藤さん」の明細の行数・日付・所要時間は架空の設定です。