前回は、見積書を出す前のチェックを、先に「確認項目表」をつくってからAIに任せました(第6回)。今回は、1枚の注文書に在庫品・直送品・製造品が混ざっているときの手配を、AIに明細ごとに振り分けさせる方法です。ポイントは、「どう分けるか」の基準と、分けたあとにやることを、先に人が決めておくことです。
佐藤さんの困りごと ― 「1枚の注文書の中で、手配の先がバラバラなんです」
水曜の午後、山本さんが取ってきた注文書を受け取りました。明細は12行。倉庫にある品、仕入先から直接お客さんに送る品、うちの工場でつくる品が混ざっています。備考欄には「全部そろえて、同じ日に届けてください」とありました。
ここから私は、1行ずつ「これは在庫があるか」「これは直送の品か」「これは製造だったか」と確かめていきます。在庫は在庫管理表で、直送は仕入先ごとのメモで、製造は製造品の一覧で。見る場所が3か所に分かれているので、12行でも30分近くかかります。途中で「この品番、直送だったっけ」と手が止まる行も出てきます。
区分を間違えると、倉庫に取りに行ったら無かった、仕入先に頼み忘れた、ということになりかねません。だから、急いでいる日ほど慎重になってしまいます。
それに、注文書の中身だけ見ていればいいわけではありません。取引先によっては、「納品書は先方指定の書式で書いてほしい」「この品は同じ日にまとめて届けてほしい」といった要望があります。山本さんが、最初に約束してきたものも多いです。こうした要望を守って手配するのも、私の頭の中にある知識に頼っています。
やってみた ― 「区分の基準」と「区分ごとにやること」を先に決めて、振り分けさせる
「手配しておいて」と丸ごと任せるのは怖いので、まず「分ける」ことだけをお願いしました。先に私が決めたのは、区分の基準と、区分ごとにやることです。材料には、今日時点の在庫管理表、直送品の一覧、製造品の一覧をExcelからコピーして使いました。第4回で作った取引先ルール集から、この取引先の要望の部分も一緒に貼ります。
当社(金属部品加工会社)の注文書の明細を、手配の区分ごとに振り分けてください。 手配の実行やメールの作成はせず、振り分けた表だけを返してください。 <区分の基準> ・在庫品:在庫管理表に品番があり、在庫数が注文数以上のもの ・直送品:直送品リストに品番があるもの(仕入先から直接お客さんへ送る) ・製造品:上の2つに当てはまらず、製造品リストに品番があるもの ・判断できない:どれにも当てはまらないもの、在庫が足りないなど迷うもの </区分の基準> <在庫管理表>(今日時点の表を貼り付け)</在庫管理表> <直送品リスト>(リストを貼り付け)</直送品リスト> <製造品リスト>(リストを貼り付け)</製造品リスト> <取引先の要望>(ルール集のこの取引先の部分を貼り付け)</取引先の要望> <注文書の明細>(12行を貼り付け)</注文書の明細> 条件: ・各行について、「区分」と「そう判断した理由」を書いてください ・理由には、どの表のどの行を見たかを書いてください ・取引先の要望(納品書の書式、同日納品など)に関わる行には、「要望」の欄でそれを書いてください ・区分ごとに「次にやること」を1行で書いてください (在庫品=倉庫に出庫依頼/直送品=仕入先に発注/製造品=製造部に依頼/判断できない=佐藤が確認) ・無理に当てはめず、迷う行は「判断できない」にしてください ・最後に、区分ごとの行数をまとめてください
返ってきたのは、在庫品5行、直送品2行、製造品4行、判断できない1行の表でした。判断できないのは、注文50個に対して在庫が30個の行です。理由の欄には、「在庫が20個足りない。分納にするか、不足分を製造に回すかは人が決めるところ」と書いてありました。迷う行を、ちゃんと私に返してくれたのです。「要望」の欄には、「納品書は先方指定の書式」「直送品と製造品は同じ日に納品」と出ていて、うっかり忘れそうな点も拾ってくれました。
理由の欄にある在庫管理表の数字を見ながら答え合わせをしましたが、残りの11行は、私の見立てと合っていました。不足の20個は山本さんに確認して、製造に回すことにしました。仕入先への発注も、倉庫への連絡も、自分でやります。いつも30分近くかかっていた振り分けが、10分ほどで済みました。
「全部そろえて同じ日に」の出荷日をどう組むかは、次回のお楽しみです。
なぜ、先に分けてから次の作業に進むのか
佐藤さんが使ったのは、注文書の明細を1行ずつ区分に分け、区分ごとに次の作業を決める「ルーティング」という使い方です。郵便の仕分けのように、まず種類で分けてから、それぞれの担当に回します。使った場所は、Claudeのチャット画面です。
公式ドキュメントより①
"Routing classifies an input and directs it to a specialized followup task."
(訳:ルーティングは、入ってきたものを分類し、専用の次の作業に振り向けます)
出典:Anthropic Engineering「Building effective AI agents」(Workflow: Routing)
https://www.anthropic.com/engineering/building-effective-agents
※AIを使った仕組みを開発する人向けの解説です。チャット画面では、区分の基準と次の作業をプロンプトに書くことで、同じ考え方を使えます。
「この注文書を分けて」と1回頼むだけでも、AIは何かしら分けてくれます。ただ、基準を書かないと、AIは一般的な言葉と自分なりの考えで分けるので、自社の「直送」が何を指すかは分かりません。基準を先に書くと、次の3つが変わります。
1つめは、区分の名前と基準が自社の言葉で固定されることです。毎回同じ基準で見てもらえます。2つめは、区分ごとに「次にやること」が決まるので、振り分けの表がそのまま手配の段取りになることです。3つめは、「判断できない」という逃げ道があるので、迷う行を無理に当てはめず、人に返してくれることです。
ここで、誰が何を判断しているかを整理しておきます。区分の基準と、区分ごとの次の作業は、人が決めています。そのうえで、各行をどの区分に入れるかを判断しているのがAIです。第3回の2段階方式のように、人が手順を1つずつ決めて指示する方法とは違います。ただし、「受け取る→分ける→手配する」という流れの順番は、人が決めたままです。公式の記事では、決まった道筋で進める仕組みと、AIが進め方まで自分で決める仕組み(エージェント)を区別していますが、今回は前者に近い使い方です。後者は第13回で扱います。
支援の現場で聞くのは、区分そのものは、慣れた人なら品番を見ればすぐ分かる、という声です。大変なのは、その先です。取引先ごとの納品書の書式や、同じ日にそろえるといった要望を守って手配するのは、覚えているベテランに頼りがちで、属人化していきます。ですから、AIに振り分けさせる価値は、区分を当てることよりも、覚えていなくても同じ手順で手配に回せることにあると、私は考えています。
在庫が足りないときに、分納にするか、不足分をつくるかは、担当者が判断するところです。AIは、その判断が必要な行に気づかせる役です。そもそも、在庫が切れないように定期的に補充する仕組みを整えておくほうが先、とも考えています。
AIに手配のような作業を任せるときは、いきなり全部を任せないようにお伝えしています。まず「分ける」だけを任せて、表を人が見て、合っていることを確かめてから次に進みます。一気に進めると、何がどう動いているのか分からなくなるからです。区分も、最初は3つで十分です。慣れてきたら、増やせばいいと思います。
限界も、正直に書いておきます。AIが見ているのは、貼り付けた時点の在庫の数字です。ほかの人が出庫したあとの数字は、反映されません。中小企業では、システム化が進んでいなくて、現場で実際の在庫を見て判断することも多いと思います。表の数字が棚の現物と合っていないこともあるので、「在庫品」と出た行も、出庫の前に現物で確認してください。販売管理システムと直接つながっているわけではないので、在庫表は、手作業でコピーして貼り付けます。品番の書き方が、表と注文書でハイフンの有無などが違うと、「どれにも当てはまらない」になることもあります。そのときは、第3回の品番の読み替えを先にやっておくと安心です。理由の欄を見て、数字を自分の目で確かめる習慣は、続けてください。
佐藤さんの不安 ― 「AIが勝手に手配やメールを送ったりしない?」
「手配」という言葉を聞いて、正直、仕入先に発注のメールが勝手に飛んでしまったらどうしよう、と思いました。
佐藤さんのような不安は、私が支援している現場でも、よく聞きます。今回の使い方は、チャット画面に表を貼り付けて、振り分けの表を返してもらうだけです。AIが仕入先に連絡したり、販売管理システムに入力したりすることはありません。プロンプトに「手配の実行やメールの作成はせず」と書いたのも、そのためです。
気をつけたいのは、Claudeに「コネクタ」でメールなどのサービスをつないだときです。Claudeのヘルプには、コネクタで「つないだサービスの中で操作もできる」と書かれています。
公式ドキュメントより②
"Review Claude's tool approval requests carefully"
(訳:Claudeからの「この操作をしてよいですか」という確認の依頼を、よく読んで確認してください)
出典:Claudeヘルプ「Get started with custom connectors using remote MCP」(Security and privacy considerations)
https://support.claude.com/en/articles/11175166-get-started-with-custom-connectors-using-remote-mcp
※独自に追加するコネクタについての注意書きです。つないだサービスで操作をさせるときの心がまえとして読んでください。
また、公式ドキュメントには、AIが外から見える操作をする前に確認を求めるよう、プロンプトに書く例が載っています。
公式ドキュメントより③
"ask the user before proceeding"
(訳:進める前に、ユーザーに聞いてください)
出典:Claude Platform Docs「Prompting best practices」(Balancing autonomy and safety)
https://platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/prompt-engineering/claude-prompting-best-practices
※開発者向けの文書で、メッセージの送信のような他の人から見える操作は確認してから、という例の一部です。
私自身は、メール送信や発注のように、やり直しができない業務には、AIを使わないようにしています。AIにお願いするのは、振り分けや下書きまで。実行するのは人です。この線引きを、おすすめしています。最初はコネクタをつながずに、貼り付けだけで始めてください。つなぐ場合は、その会話で使うものだけをオンにして、いらないツールはオフにしましょう。公式ヘルプによると、TeamとEnterpriseのプランでは、管理者(オーナー)が操作ごとに「常に許可」「承認が必要」「ブロック」を決められます(2026年10月時点)。一方、個人で使うときに、操作の前に毎回確認が出るかどうかは、ヘルプに明記が見つかりませんでした。「確認が出るはず」と決めつけず、つなぐ前に、確認の出方を試してください。
今回の部品:明細の振り分けルール(区分の基準+区分ごとの次にやること)
「在庫品・直送品・製造品・判断できない」の4区分の基準と、区分ごとに次にやることを書いた指示文です。取引先ごとの要望も、この指示文で一緒に確認します。全体フロー図の⑤「手配」が埋まりました。この部品は、最後に組み上げる受注エージェントの「注文を受けて手配に回す」役になります。
自社でやるなら
30分で試せる一歩があります。直近の注文書を1枚選び、5〜10行ほどの明細を用意してください。次に、自社の言葉で区分を2〜3つ書き出します。取引先ごとの要望(納品書の書式や同日納品など)があれば、それも一緒に用意してください。名前と、どうなったらその区分かの目安を、1行ずつです。「判断できない」の区分は、必ず入れてください。
その基準と明細をAIに渡して、振り分けてもらい、理由の欄を見ながら答え合わせをします。AIが迷った行は、基準に足りないものがあるサインです。基準に1行ずつ足していけば、次の注文から使えます。在庫品と出た行は現物で確認して、手配の実行は、これまでどおり自分でやってください。
次回は、「全部そろえて同じ日に届けて」と言われたときの出荷日を、AIにじっくり考えさせて組む方法です。
自社の手配の流れに合わせた区分の決め方や、コネクタの権限設定をご相談したい方は、無料相談でお受けしています。
※本記事はAIを活用して作成しています。登場する「ミナト精工」「佐藤さん」の注文の行数・在庫数・所要時間は架空の設定です。