新市場の開拓は、闇雲に新規開拓先を探すところから始める必要はありません。AIに自社の取引データと市場情報を整理させ、「どこに伸びしろがあるか」の仮説を立てる——この順番が遠回りに見えて実は近道です。「次に狙うべき市場」をAIでどう特定していくかをお伝えします。
皆さんこんにちは!AIコンサルタント(中小企業診断士)の津田です。
今回は「「会社をどうするか、分からない」。経営戦略3課題とAIで自分の答えを見つける全体地図」で触れた3つの課題のうち、「「次に何を売ればいいか分からない」をAIで解く。新商品発想のフレームワーク」で扱った新商品開発と対をなす、「新市場開拓」を掘り下げます。
「今のお客様には満足いただいている。でも、この先も同じ顧客層だけで成長を続けられるだろうか」——既存顧客への対応で手一杯になり、新しい市場を探す余裕がないまま一年が過ぎていく。そんな感覚を持つ経営者・推進担当の方は少なくありません。
「紹介」頼みの新規開拓には限界がある
株式会社ラクスが2025年11月に発表した調査によれば、中小企業が新規開拓のために実施しているアプローチ手法は「既存顧客や知人からの紹介」が60.7%と突出し、次いで「代表電話への架電や飛び込み営業」が30.7%という結果でした。また、東京商工会議所の2026年の調査では、スタートアップとの連携・協業や異業種との協業に関心がある企業が43.3%と、前年から6.4ポイント増加しています。
つまり、多くの会社が「紹介と足で稼ぐ営業」に依存しながらも、それだけでは限界があると感じ始めているのが実情です。中小企業庁がまとめた2026年の経営課題調査でも、新たな市場を求める「販路開拓」を課題に挙げる企業は60.5%にのぼります。「新しい市場を探したい」という思いはあっても、探し方そのものが属人的な勘と紹介頼みのままという会社が多いのです。
なぜ新市場の見極めは勘だけでは難しいのか
新市場の見極めが進まない理由は、たいてい次のどちらかです。
- 手元のデータを分析する時間がないから——取引データ・問い合わせ履歴はあっても、「どの業種・地域からの反応が良いか」を集計する余力が現場にありません
- 市場調査のノウハウが社内にないから——外部の市場調査会社に依頼する予算はなく、かといって「勘」だけで新市場に踏み出すのはリスクが大きいと感じています
この「本格的な市場調査」と「勘だけの新規開拓」の間を埋める手段として、AIによるデータ整理と仮説立てが現実的な選択肢になってきています。
AIで次の市場を特定する3ステップ
① 既存顧客の共通点を分析:これまでの取引先・問い合わせ履歴をAIに整理させ、「業種」「地域」「企業規模」「発注理由」に共通するパターンを洗い出します。人間が表計算ソフトを睨みながら探すより、AIに任せた方が早く網羅的です。
② 隣接市場の候補出し:見つかった共通点をもとに、「似た課題を抱えていそうな業種」「同じ強みが応用できそうな地域・客層」をAIに複数案出させます。ここでも量はAIに任せ、人間は「これは現実的」「これは違う」を判断します。
③ 仮説の検証設計:絞り込んだ候補市場について、「まず小さくテストするなら何をすべきか」をAIと一緒に設計します。展示会に一度出てみる、少数の見込み客にヒアリングするなど、リスクを抑えた検証方法を具体化していきます。
使える公的支援策
- 中小企業新事業進出補助金:事業再構築補助金の後継として位置づけられる制度で、新市場・新分野への進出に伴う設備投資や販路開拓の費用を支援します。2026年度は複数回の公募が見込まれていますが、次回の公募時期・要件は変更される可能性があるため要確認です
- よろず支援拠点:国が全国に設置する無料の経営相談窓口で、新市場開拓の仮説を第三者の専門家と一緒に検証する最初の相談先として活用できます
※制度の詳細・公募スケジュールは年度により変わります。最新情報は中小企業庁公式サイトやよろず支援拠点でご確認いただくか、当方までご相談ください(2026年7月時点の情報です)。
それでも一社では詰めきれない部分
AIは、データからの共通点抽出と候補市場の数出しをとても軽くしてくれます。ただし、支援の現場でわかったことですが、AIが示す候補市場は「データ上の類似性」までは示せても、「実際にその市場で自社が信頼を得られるか」「営業体制が耐えられるか」といった現場の実情までは踏まえきれません。
第三者が自社の営業リソースや過去の失敗パターンと照らし合わせて「これは狙う価値がある」「これは今は時期尚早」と一緒に検証することで、初めて実行に移せる市場開拓の仮説になります。
いきなり新規事業や海外展開を考える必要はありません。まずはAIに、過去の取引先リストを見せながら「このお客様たちに共通する特徴は何か」を聞いてみてください。それが、「今の客以外に売る」ための最初の一歩です。
候補市場が見え、事業として本格的に構想を練りたくなったときは、事業構想を整理するために私が開発した「MiraizConcept」というツールもあります。フレームワークに沿ってAIと対話しながら、一人でも構想を形にできるサービスです(miraiz.biz、14日間無料トライアルあり)。
候補市場の仮説ができたら、次は事業の柱としてどう育てるかの検討へ。社内だけで抱え込まず、無料相談で一度お話ししましょう。
【+α:手動で試す/自動化して仕組み化する】
手動(プロンプト):Claudeに「当社は〇〇業。過去の取引先リストの特徴(業種・地域・発注理由)を貼るので、共通点と似た課題を持ちそうな業界を挙げてほしい」と伝え、対話しながら候補を絞り込む方法。今日からPCでも始められます。
自動化(Cowork/Code):CRMの商談データや問い合わせフォームの内容を定期的に読み込ませ、反応の良い業種・地域の傾向を月次でレポートさせる仕組み。担当者が毎回手作業で集計する手間を減らせます。
まずは手動で試し、自分に合うと感じたら自動化を検討する、という順番がおすすめです。
よくある質問
Q. 新市場開拓はどこから始めればいいですか?
まずは「既存顧客の共通点分析」から始めてください。これまでの取引先・問い合わせ履歴をAIに整理させ、業種・地域・企業規模・発注理由に共通するパターンを洗い出します。その共通点をもとに、似た課題を抱えていそうな隣接市場の候補をAIに出させ、検証しやすいものから小さく試していきます。
Q. 市場調査会社に頼まず、自社だけで新市場を見極められますか?
データ整理と仮説立てまでは、AIを使えば自社でも十分進められます。ただしAIが示す候補市場は「データ上の類似性」までで、実際にその市場で信頼を得られるか、営業体制が耐えられるかまでは踏まえきれません。展示会への出展や見込み客へのヒアリングなど、リスクを抑えた小さな検証と、第三者との壁打ちを組み合わせることをおすすめします。
Q. 新市場進出に使える公的支援はありますか?
事業再構築補助金の後継として位置づけられる中小企業新事業進出補助金が、新市場・新分野への進出に伴う設備投資や販路開拓の費用を支援しています。また、国が全国に設置する無料の経営相談窓口「よろず支援拠点」も、新市場開拓の仮説を専門家と検証する最初の相談先として活用できます(2026年7月時点)。